「生命保険は『不幸クジ』」…それ本当に必要? 荻原博子さんに聞く「インフレ時代を生き抜く知恵」
これから生命保険に入るなら‟掛け捨て型”の「がん保険」より「医療保険」
一方、最近は保険商品にさまざまなものが出てきている。がんになり、亡くなる人も少なくないことから、がんに特化した保険商品もある。荻原さんは「入るなら、がん保険でなく、どんな病気でもいい医療保険で、できるだけ安いのを選ぶのがいい」と話す。がん患者の9割以上は健康保険で治していると指摘する。がんは良くなったり悪くなったりするが、前出の傷病手当金の制度は、繰り返し利用して通算で1年半と「けっこう長く利用できるようになった」という。 それでも、がんなどの傷病が心配なら、まずは「しっかりと貯金しておくのがいい」と荻原さんはみている。一方、がん、脳卒中、急性心筋梗塞の三大疾病特約のある保険は、適用の要件が厳しく、特約保険料を多く支払う必要があることから、費用対効果をよく見極め、よく考えたうえで加入を検討してほしいという。 これから保険に入るなら、荻原さんは、「掛け捨て型」を勧める。貯蓄型は、加入時の運用利回り(予定利率)が最後まで続く。そのため、低金利時代に入るのは損となる。他方で、過去の高い金利水準で加入していた貯蓄型の保険は、お金がたまっていくため、解約など見直さず、残しておいたほうがいい。 「外貨建て」という商品があり、低金利の日本と違い、金利の高い海外で運用ができるとされ、運用利回りのいい貯金機能がついたものだ。荻原さんは、保険金の支払い、受け取る保険金や満期金も外貨という商品だと注意を促す。為替レート変動のリスクは加入者が負う一方で、保険会社はノーリスクで保険の手数料を稼ぎ、外貨商品の為替手数料も稼ぐことができ、二重に手数料が入るという。 生保商品を契約する場合は、こうした基本的な仕組みや特徴を踏まえたうえで、公的支援制度の活用も視野に入れ、それでも自分に必要なものなのかを考えていきたい。不要なものは見直していいのではないか。 生保契約を見直した結果、資金に余裕が生まれたら、運用したくなるかもしれない。インフレ時代を迎え、預金は資産価値が目減りしていく。 最近は政府が投資を促すため、資産運用への課税で、さまざまな優遇措置を打ち出している。’14年に始まったNISAや、来年開始の新NISAだ。受け取る配当金や、売却で得た利益に約20%の税金がかかるが、この税金を一定限度で非課税にする制度で、新NISAでは適用範囲や期間が拡大する。荻原さんは、投資について次のようにアドバイスする。 「とりあえず、しっかり貯金をしたほうがいい。運用は、かなりお金を持っている人がするもの。住宅ローンや教育ローンなど借金がある人は早く返したほうがいい。借金もなく、たっぷりとお金のある人は投資をすればいい」 投資をするにしても、当面は不透明感が強く、素人が投資するのに向かないのではとも、荻原さんはみている。中国経済は減速しているほか、日本の岸田文雄政権は支持率が低迷するなど、政治が不安定になっていることなどを挙げる。 「お金のある人は投資をしてもいいが、素人が小金で乗り出す状況でない」 荻原 博子 経済ジャーナリスト。1954年、長野県生まれ。大学卒業後、経済事務所勤務を経て独立。以降、経済ジャーナリストとして活動。家計経済のパイオニアとして、経済の仕組みを生活に根ざして平易に解説する第一人者として活躍。 取材・文:浅井秀樹
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