還暦には赤いクルマを買うぞ! とアルファ・ロメオ2000スパイダー・ヴェローチェを手に入れた自動車ジャーナリストの九島辰也さん 人間臭さがいいんです!
還暦祝いはアイアンバンパーのスパイダー!
自分の還暦祝いに赤いクルマを買おうと思っていた自動車ジャーナリスト、九島辰也さん。まさかアルファ・ロメオになるとは思っていなかった。でも、思えばイタリア車とは深いつながりがあったのでした。 【写真22枚】自動車ジャーナリストの九島さんが還暦祝いに買ったアルファ・ロメオ・スパイダー・ヴェローチェの詳細画像はこちら ◆転職先は自動車雑誌の編集部 イタリア車の実体験は1995年まで遡る。雑誌の仕事に携わるようになってからだ。この年ドジャースで活躍する野茂英雄投手の姿を見て、当時築地にあった大手広告会社からの転職を決めた。テレビ画面を通して“好き”を仕事にしている人を目の当たりにしたからだ。 関わった雑誌は『Car EX(カーイーエックス)という自動車専門誌。ディープにクルマを掘り下げながらその特徴を理解した上でサラッとかっこよく乗りこなそう! みたいなコンセプトだったと思う。単に新車を紹介するのではなく味付けするメディアで、イタリア車を取り扱う比率は他誌よりも多かった。 取り上げていたイタリア車は、ランチア・デルタ、アルファ・ロメオ75、145、155、164、166、FRスパイダー、FFスパイダー、ブレラ、マセラティ・クアトロポルテ、3200GT、それとフェラーリあたり。「155のバッジ違いランチア・デドラが狙い目だ!」なんて特集を作った。 取材はインポーターの広報車やショップの販売車両なので、動かしてはいたもののリアルに所有はしなかった。修理やメンテナンスの大変さを目の当たりにしていたからだ。ショップで聞くのはいつも「こいつは厄介でさ、このパーツを交換するのにまずここを外してからここを動かして……」なんて小言をいつも聞かされていた。 学生時代を振り返っても、アウディ80やBMW3シリーズや6シリーズ、フォード・サンダーバードやポンティアックなどを選んでいて、イタリア車を買うことはなかった。「目黒通りでマセラティが燃えてたよ」といった会話はそれほど珍しくなかった時代。泥沼にハマるイメージが強かったのは確かである。 ◆機内誌の編集長 そんな流れの中状況は変わる。イタリア車というかイタリアにどんどん親しみを覚えるようになってきた。 きっかけはイタリアの航空会社アリタリア航空の日本語版機内誌の編集長という仕事を受けたこと。それによりイタリアへ行き、イタリア人と接する機会が一気に増えた。もちろん、それまでもモーター・ジャーナリストとしてイタリアで行われるヨーロッパ・メーカーの国際試乗会に参加したり、アルファ・ロメオやフィアット、フェラーリの本社や工場に足を踏み入れたりしたことはある。が、クルマ取材以外の目的での渡航が増えた。ミラノ万博がいい例だろう。モーターショー以外でのイベント取材は珍しい。 イタリアを知るとこの国の凄さがわかってくる。ナポリのサルトリア、クレモナのストラディバリウス、それに全土で手がけているオリーブ・オイルやワインの製造方法。歴史が長すぎて取材しても文献を読んでも一朝一夕には理解できない。 その目線で言うと、トリノのフィアット、ミラノのアルファ・ロメオ、マラネッロのフェラーリ、モデナのマセラティ、サンタアガタのランボルギーニも同じ。それぞれがイタリア人のこだわりでできている。およそ創業100年を迎えるブランドも少なくない。戦後組もいるが、その起源は創業年以上に長い。言わずもがな、フェラーリがいい例だろう。スクーデリア・フェラーリは90年を超えている。 余談だが、これら北イタリア一帯の自動車産業に関わるエリアを“モーターヴァレー”と呼ぶ。そこで、イタリア人に「モーターヴァレーはイタリア語で何という?」と質問すると、「イタリア人はそんな呼び方はしないから、モーターヴァレーはモーターヴァレーだろ」と流された。これもイタリア人っぽい。自分達発信以外はあまり興味ないようだ。 アリタリア航空機内誌に携さわるようになりイタリアを身近に感じると、本気でイタリア車が一台欲しくなった。そこで購入したのがフィアット500ツインエア。2017年ごろの話だ。すでにディスコンになっていたブラックのボディカラーを探し、それにオプションのトリコロールラインのデカールを貼った。 このクルマを選んだ理由はシンプル。試乗会で乗って感動し、いつか欲しいと思っていた。合わせても900ccに満たない2つのシリンダーがトコトコ働きながら走る様はバイク感覚で、バイク少年だった自分には心底刺さった。そのタイミングがこの時だったのである。もちろん、この“チンク”は今も愛車として活動している。 それにしてもこんなクルマを21世紀に入ってよくつくったなと思う。エンジンのダウン・サイジングがトレンドとなる中で生まれたイタリア人のこだわりとユーモアの産物か。 さてさて、アルファ・ロメオ購入までの前段がだいぶ長くなってしまったが、ここから2000スパイダー・ヴェローチェがガレージに収まることになった話に進めたいと思う。 ◆コレツィオーネ このクルマに関しては、今回購入させていただいたイタリア車専門店コレツィオーネが深く関係する。オーナーの成瀬くんとはクラシックカー仲間であり、ゴルフ仲間でもある。ショップが目黒通りという行動範囲内にあるので、立ち寄ることもしばしば。信号待ちで在庫チェックが習慣になっている。そんな彼との会話で「アイアンバンパーのスパイダーが出てきたら教えて」と言ったのは2年くらい前だったと思う。それが今年ラウンド中に、「そういえば、九島さんが気にしていたアルファ入ってきますよ」となったわけだ。 アルファ・ロメオに対するイメージはすこぶるいい。戦前のグランプリレースでの活躍、戦後モデルの艶やかなデザインはまさにイタリア人的。真の強さとカッコ付けなところが好ましい。クラシックカー・ラリーで6C2300の実車を見た時は度肝を抜かれた。凄い迫力だ。 それにこのブランドはフェデリコ・フェリー二監督の描く世界を匂わす。煩悩を隠さない人間臭さが好きだ。彼の自伝的映画『ナイン』をご存知だろうか。苦悩する主人公がステアリングを握るのがアルファ・ロメオ。その姿がめちゃめちゃかっこいい。そこに登場するジュリエッタ・スパイダーがこのブランドのコアイメージのような気がする。 2000スパイダー・ヴェローチェはまさにその世界にあると思う。走らせるとわかるが、操作系すべてのフィーリングはダイレクトに伝わる。そこが機械らしくもあり、人間っぽくも感じる。扱いに対して良いも悪いも素直に反応するからだ。年式は1980年。キャブの最終だ。旧く見えて意外と高年式。でもって厄介な電子制御がないのがポイントである。 色が赤なのは自分に解する還暦祝い。3、4年前から考えていた。「還暦には赤いクルマを買う」って。でもまさかそれがアルファ・ロメオになるとは。人生はおもしろい。 文=九島辰也 写真=望月浩彦 (ENGINE2024年8月号)
ENGINE編集部
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