大統領を逮捕できない韓国・高官犯罪捜査庁 露呈した「力不足」
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による「非常戒厳」宣布をめぐり、尹氏を内乱などの容疑で捜査している高官犯罪捜査庁(高捜庁)は6日、警察に逮捕状の執行を一任すると発表した。一方、警察は事前の調整はなかったとして「法的議論が必要だ」と即時の受け入れを事実上、拒絶。尹氏の逮捕をめぐり、捜査当局間で「押し付け合い」とも見える混乱が生じている。 【図解】過去にも退任後に逮捕、有罪相次ぐ… 主な歴代韓国大統領 ◇捜査当局間で「押し付け合い」 高捜庁の李載昇(イ・ジェスン)次長は6日の記者会見で、「(尹氏側の)強い抵抗を想定していなかった」とし、「我々の人員をすべて動員しても約50人だ。警察で迅速に制圧して進めた方が良いと判断した」と警察に「一任」しようとする理由を説明した。 ただ、聯合ニュースによると、警察側の反発もあり、最終的には従前と同じく高捜庁や警察などで構成する合同捜査本部で逮捕状の執行を試みる方針で整理されたという。 韓国メディアによると3日の逮捕状執行当時、警護庁要員や軍人ら約200人が腕を組んでバリケードを作り、捜査員の進入を妨害。警察は警護庁の朴鍾俊(パク・ジョンジュン)庁長らを公務執行妨害で現行犯逮捕しようとしたが、高捜庁が止めたという。高捜庁は約5時間半対峙(たいじ)した後、執行を中断した。 高捜庁はその後、朴庁長らに対し、公務執行妨害容疑で出頭を要請。大統領代行の崔相穆(チェ・サンモク)経済副首相兼企画財政相に対しては警護庁に逮捕状執行への協力を命じるよう要請し、5日までに返事を要求した。だが、警護庁側は出頭を拒否。崔氏からも返事はなかった。 ◇進歩系前政権の「置き土産」 高捜庁は政府から独立した捜査機関で、政治家や政府高官などによる不正捜査を担当する。進歩系の文在寅(ムン・ジェイン)前政権下の2021年、強い権限を持つ検察が保守政権と結びついて恣意(しい)的な捜査をしてきたとの進歩勢力の「検察不信」を背景に、検察の力を弱める狙いで発足した。しかし、3日の逮捕状執行失敗を受け、進歩系の野党側からも高捜庁の「力不足」を非難する声が上がる。警察内部でも、今回の高捜庁の対応に対して、「押し付け」に対する反発や、大統領警護庁要員に対する現行犯逮捕を止められたことなどへの不満も出ているという。【果川(韓国北西部)・日下部元美】