みずほ、楽天カードに「割高」出資の事情 接近するイオンと楽天の経済圏
「デジタルの世界は相当に広がっており、コマースと金融が融合して消費者が流れ込んでいる」。みずほフィナンシャルグループ(FG)の木原正裕社長は11月14日に開いた記者会見で、楽天カードに出資する理由をこう説明した。 みずほFGにとって、クレジットカードのビジネス強化は「3メガバンクグループの競争で勝ち残るために絶対に埋めなければならないミッシングピース」(みずほ銀行幹部)と位置付ける宿願だった。2019年にクレディセゾンと15年間に及んだ包括提携を解消して以降、三菱UFJニコスを持つ三菱UFJFG、三井住友カードがある三井住友FGよりも際立つカード事業の弱さを克服できずにいた。 さらに焦りを増幅させたのが、三井住友FGが打ち出した個人向け金融総合サービス「Olive(オリーブ)」だった。マネーフォワードとの提携で取り込む家計簿機能により、他の金融機関と接続できるようになる。みずほ銀行役員は「オリーブの侵食を止められない」と頭を抱えつつ、「挽回策として『みずほ経済圏』を構築しようにも、中核に据えるべきカード事業の現状を踏まえると失敗する可能性が高い」と嘆いていた。 みずほFGによる楽天カードへの出資比率は14.99%だ。楽天グループから発行済み株式を譲り受ける形で、出資額は約1650億円に上る。これは、楽天カードの企業価値を約1兆1000億円と評価したことを意味する。 5000億~6000億円と試算していた、ある証券アナリストは「提携のシナジー(相乗効果)を見込んだ相対取引だが、相当に引き上げられている」と指摘した。みずほにとって、高値づかみと言えるような出資、ということだ。
キープレーヤーはオリコ
法人向けの展開を推進したい楽天カードにとって、今回の出資は渡りに船だろう。発行枚数が3000万枚を超え、個人向け市場を中心に力強く伸び続けてきたが、成長を維持するためには新しい領域に手をつけなければならない。 「法人の信用が必要だが、我々はそこが十分ではなかった」(三木谷浩史・楽天グループ会長兼社長)。楽天Gは商品性の向上や加盟店開拓で連携することを目的にみずほ銀行、オリエントコーポレーション(オリコ)、UCカードを交えた6社で業務提携を結んだ。この提携により、法人向け融資に強いみずほの顧客基盤や営業ノウハウを活用できるメリットは大きい。みずほFGの出資比率を15%未満に抑え、楽天カードを楽天Gの連結子会社にとどめることもできた。 足元で楽天Gの資金繰りは落ち着いてきている。巨額の社債は借り換えで先延ばししつつ、通信基地局を一度売却して借り直す「セール・アンド・リースバック」でも約1700億円を調達。かつて楽天証券ホールディングスの株式を手放した時のような、逼迫した状況ではない。つまり「カード事業を加速するための提携が、結果的に資金調達につながるというベストシナリオ」(前出のアナリスト)になったというわけだ。 12月3日には「みずほ楽天カード」の提供を開始する。証券分野に続く連携の強化で、みずほFGを抱え込む路線がより鮮明になった楽天経済圏だが、更なる拡大も視野に入る。その鍵を握りそうなのが、みずほ系列の信販大手であるオリコだ。 楽天Gは今回の出資をきっかけに、オリコと加盟店の開拓や中小企業向けビジネスを巡って業務提携を結んだ。オリコは大手クレジットカードでは初めて、人工知能(AI)を使った与信に基づいて長期分割払いの枠を提供するサービスを導入した。楽天Gも楽天市場のユーザー向けに同様のシステムを提供したい考えを明らかにしている。 それだけではない。オリコは3月、イオンフィナンシャルサービス(FS)傘下のイオンプロダクトファイナンスを約250億円で完全子会社化した。これをきっかけにして、オリコとイオンFSは協業を加速。25年春には、イオングループと取引する中小企業向けに法人クレジットカードを発行するほか、個別企業のニーズに応じた融資も始める。 イオンの取引先を両社の金融サービスで囲い込み、法人版のイオン経済圏の確立を目指すものだ。オリコの飯盛徹夫社長は3月、日経ビジネスの取材にこう話した。「会員向けカード事業は、オリコポイントとイオンのWAON(ワオン)ポイントの連携や、AEON Pay(イオンペイ)やオリコのデジタル分割払いでの協働を検討するなど、イオンカードとオリコカードの経済圏を融合していく」 オリコを媒介にしてイオン経済圏とのタッグを見据えれば、EC(電子商取引)と全国に広がる実店舗網の両輪で楽天市場を成長させるプランも現実味を帯びてくる。楽天とイオンの接近は、激しい競争が繰り広げられているポイント経済圏の勢力図を大きく変える可能性がある。
鳴海 崇、杉山 翔吾