悲劇から約1か月…木村花さん不在のリングで女子プロレス「スターダム」の選手たちは何を伝えたかったのか?
メインの8人タッグに出場したジュリアは、昨年12月の後楽園大会で、花さんと時間切れ引き分けとなる激戦を繰り広げ、近い将来にはビッグマッチでの再戦を期待されるライバルだった。ちなみに12月の対戦後に、花さんはこんなコメントを口にしている。 「他の選手にはわからないと思うけど、私はジュリアの気持ち、少しだけならわかる。彼女の辛さとか。不特定多数の知らない人から暴言浴びたり、何も事実を知らない人から好き勝手なことを言われたりとか」 花さんのコメントを補足すると、ジュリアは以前に所属していた団体から、スターダムに移籍する際のトラブルで、この試合の時期に激しいバッシングを浴びていた。昨年12月のことなので、まだ花さんへのSNS上での激しいバッシングが始まる前だが、5か月後の出来事を暗示しているようで、改めて読み返すと胸が痛む。 8人タッグということもあって、比較的出番が少なかったジュリアだったが、中盤戦の乱戦の中で花さんの得意技で、対戦の度に食らっていたビッグブーツ(顔面への前蹴り)を放った。これも未完に終わってしまった、無二のライバルだった花さんに対する、ジュリアからのメッセージだったように思える。 全5試合が行われたこの大会は、大半の選手にとって3か月ぶりの実戦とは思えない熱戦が続いた。そして終わってみれば、リング上で木村花という名前が語られたのは、試合前の10カウントゴングの際の1回だけだった。リング上でも試合後のバックステージでも、選手たちは自分からは花さんの名前を出さなかった。 だからといってスターダムの選手たちが、花さんの存在を軽んじたり、無かったことにしようとしているのかと言えば、決してそうではあるまい。誰にとっても花さんの存在が、そして悲しい最期が重すぎるものであったが故に、名前を口に出すことさえできなかったのだ。 花さんがこの世を去って約1か月。かつての仲間たちはまだ癒えぬ悲しみの中で、花さんが何を望んでいるのか、今の自分が何をすべきかを考え抜きながら、それでも力強く一歩目を踏み出した。 (文責・須山浩継/フリーライター)