「日本酒を絶対に途絶えさせない」 日本に「純米酒」や「特別な酒米」を復活させた350年続く京都の酒蔵とは
1673年に和歌山県で創業、戦時下の大空襲をきっかけに京都・伏見に移転し、昨年350周年を迎えた玉乃光酒造(京都市伏見区)。戦後、日本に「純米酒」や、特別な酒米を復活させた蔵元だ。義理の父から会社を承継し、2023年9月に社長に就任した羽場社長が目指す玉乃光酒造、そして日本酒業界の未来について、話を聞いた。 【動画】なぜ事業承継が大切なのか専門家に聞いた。
◆人知を超えた日本酒の伝統
ーーお酒の味や品質を追求し続けている玉乃光酒造ですが、残していきたい文化や会社の強みを教えてください。 一つは、日本酒自体の文化です。 玉乃光酒造も昨年350周年を迎えましたが、日本酒自体は日本で1000年以上続く立派な伝統文化です。 昔から日本酒は神に奉納するといった文化もあり、人知を超えたものを感じます。 ほかのお酒にはない、日本酒ならではの魅力は絶対に途絶えさせてはならないと思っています。 玉乃光酒造の強みは、京都にあることです。 日本酒を製造する酒蔵は日本各地にありますが、多くの場合は人里離れた場所にあって、どうしても行きにくいんです。 でも玉乃光酒造は京都駅から車で15分くらいの場所にあるので、気軽に来ていただけます。 実際に100年続く酒蔵を覗いてくだされば、きっと誰もが玉乃光酒造の日本酒を飲んでみたくなるはずです。 ーー100年続く酒蔵と聞くと、覗いてみたくなりますね。 今後、観光地として整備するため、安全性や公益性も高めていきたいと考えております。 本社工場の向かいに二つの蔵を所有しており、一つは今は使っていないので、その酒蔵を玉乃光酒造の歴史として残していきたいですね。 観光地として整備することができれば、日本国内はもちろん、海外からのお客様にもきっと楽しんでいただけると思います。 酒蔵の見学をしていただいた後、歴史を感じながら日本酒を楽しんでいただく。 そんなサイクルができたら最高です。
◆純米酒だけど純米酒じゃない、今の時代に合った日本酒とは
ーー玉乃光酒造では、純米酒を復活させた会社とお聞きしましたが、「純米酒」以外へのチャレンジに関してはいかがでしょうか。 純米酒=お米と水のみで作ったお酒、というイメージをお持ちの方が多いのですが、厳密に言うと、「3等以上のランクが付いたお米と水のみで作ったお酒」です。 なので、等級がついていないお米で作ったお酒は、たとえ原料がお米と水のみでも純米酒ではありません。 ですが、玉乃光酒造のこだわりはあくまでも「こだわり抜いたお米と水のみを使ったお酒」なので、法律的に純米酒とはいえないお酒も作っていくかもしれません。 最近だと、フードロスやSDGsが重要視されていますよね。 本来、純米酒を作るにはお米の半分を捨てる必要があります。 今後はお米全部を使ったお酒のような、時代に合った純米酒作りにチャレンジしていきたいと思っています。 ーー純米酒の原料となるお米にもこだわりを持っているんですよね。 岡山にある契約農家さんに、特別なお酒を作るための、特別なお米を作っていただいています。 玉乃光酒造で使っている酒米(お酒を作ることに特化したお米)は、ほとんどが岡山の「雄町(おまち)」というブランド米です。 これは酒米市場で売上規模1位を誇る「山田錦(やまだにしき)」の「おじいさん」にあたるお米なんですよ。 玉乃光酒造が純米酒を復活させた当初は「雄町」は絶滅寸前だったのですが、11代目社長がライスセンターを寄付したり地元の方に頼み込んだりしたそうです。 今でも岡山の農家さんに「玉乃光酒造さんには大変感謝しています」と言っていただけることも多くて、やはり11代目社長には頭が上がりませんね(笑)