遺伝情報で病気はどこまで分かる?(下)発症リスクを正確に捉えることに期待
ゲノム全体にわたって、たくさんの遺伝子が二型糖尿病や肥満に関連していることが分かる。それぞれの遺伝子バリアントが糖尿病の発症に関わるリスクは1.1倍~1.2倍ほどだった(そのバリアントを持たない人が二型糖尿病になるリスクを1.0とする)。前述のBRCA1と乳がんのように、1つの遺伝子が1つの病気に大きな関連性があるわけではないのだ。実は多くの病気が、この二型糖尿病のように、多数の遺伝子バリアントと緩やかに関連しているタイプである。 それでは、二型糖尿病の発症リスクを遺伝情報からどの程度知ることができるのか。ある研究によれば、二型糖尿病関連バリアントを持っている数とその発症リスクは図のようになるという。
二型糖尿病関連バリアントを多く持っている人のグループは、少ない人のグループ(図3では一番左のグループ)より発症リスクが高いと捉えることができる。しかし、このリスクは病的バリアント保有数でグループ分けした場合のものであり、その発症リスクの値も誤差がとても大きいのが現状だ。つまり、仮に病的遺伝子バリアントの保有数から「糖尿病リスク5倍」と見積もられたとしても、BRCA1遺伝子の病的バリアントから見こまれた「乳がんリスク5倍」とを比べると、同じ5倍でもその信頼性が大きく異なり、糖尿病のリスクを遺伝情報から正しく見積もるにはまだまだ研究が必要ということになる。もちろん乳がんに関連する遺伝子にもBRCA1遺伝子ほど関係性が確かでないものもある。
「遺伝子検査」と言ってもいろいろある
遺伝情報から分かる病気のリスクは、病気や遺伝子によって精度が大きく異なる。一方で、「遺伝子検査」と名の付くものは数多くあり、病院のみならずテレビ広告でも聞くようになった。検査の「正確さ」をどう見極めればよいのか。もっとも大きな区別は「保険適用されているかどうか」である。保険適用されていれば、患者負担が窓口で3割などになり、残りは国の医療費などから負担されるが、これは一定の精度と信頼の有効性があると認められたから、こうなっている。保険適用されていないとなれば、まだ検証が十分ではないということだ。 そもそも「遺伝子検査」と呼ばれているものにはどんなものがあるのか。整理すると図のようになる。