新築でも中古でも最も妥協したのは「予算より高い価格」。注文住宅では性能にこだわりも 令和5年度住宅市場動向調査
次に、住み替えた住宅を選択した理由を見ると、注文住宅では「信頼できる住宅メーカー/不動産業者だったから」が最多の52.2%。分譲戸建住宅、分譲集合住宅では「新築住宅だから」が最多で、それぞれ 64.9%、69.4%だった。既存戸建住宅、既存集合住宅では「価格が適切だったから」が最多で、それぞれ 67.9%、59.5%だった。新築にこだわるか、価格を重視するかで、新築を買うか中古を買うかが分かれるといえそうだ。 また、住宅の選択理由となった設備等について見る(図2)と、分譲戸建住宅と分譲集合住宅では、「間取り・部屋数が適当だから」、「住宅の広さが十分だから」、「住宅のデザインが気に入ったから」の3項目が僅差で上位になっている。既存戸建住宅と既存集合住宅では、「間取り・部屋数が適当だから」、「住宅の広さが十分だから」が上位になるものの、「住宅のデザインが気に入ったから」は新築系ほどには高くない。中古系の場合、間取りや広さが希望に添っていても、デザインは好みでないと感じる場合もあるようだ。 興味深いのは注文住宅で、同じ新築系であっても「間取りや部屋数」「住宅のデザイン」に加え、「高気密・高断熱住宅だから」や「火災・地震・水害などへの安全性が高いから」といった、性能面の項目が上位になっている。最近の注文住宅では、省エネ性や安全性などの性能の高さが特徴になっているからだろう。
予算より高い価格で、返済計画は大丈夫?
住宅価格(建築費用)の上昇が住まい選びに影響していることがうかがえる結果だが、では、それぞれを選んだ世帯の購入資金や返済計画などはどうなっているのだろう? 購入資金を見る(図3)と、土地を購入した注文住宅新築世帯で平均5811万円、建て替え世帯で平均5745万円だ。土地の取得費用の有無があるのにあまり変わらないのは、建て替えた注文住宅の延べ床面積が平均136.3平方メートルと最も広く、土地を購入した注文住宅は平均116.2平方メートルとそれより小さいので、面積の違いによる影響もあるのだろう。 また、購入資金はそれぞれ、分譲戸建住宅で4290万円、分譲集合住宅で4716万円、既存戸建住宅で2983万円、既存集合住宅で2793万円となっている。興味深いのは、分譲集合住宅で自己資金が多いことだ。借入額が少ない中古系と合わせて、自己資金比率が5割近くまで高くなっている。 ただし、平均値で自己資金比率の高いものは、ローンを組まずに全額自己資金という比率も高い。住宅ローンを利用したのは、注文住宅(建て替え)で48.7%、分譲集合住宅で54.8%、既存戸建住宅で46.5%、既存集合住宅で38.8%となっている。 そこで、住宅ローンの借り入れがある世帯の返済負担率(※)を見てみよう。住宅ローンの年間返済額と返済負担率は以下のようになった。いずれの場合も、返済負担率は2割を切る比較的安全な返済計画を立てたことが分かる。 ■住宅ローンの年間返済額(返済負担率※) 注文住宅(全体):155.2万円(19.4%) 分譲戸建住宅 :125.0万円(17.6%) 分譲集合住宅 :123.6万円(15.5%) 既存戸建住宅 :108.3万円(16.1%) 既存集合住宅 :110.6万円(15.7%) ※返済負担率とは、年間返済額の年収に占める割合 ちなみに、民間金融機関から借り入れた世帯の金利タイプを見ると、「変動金利型」が79.2%だった。超低金利が続いていた時期なので、より金利の低い変動金利型を選ぶのがスタンダードだったのだろう。 住まいを選ぶ際に、誰もが重視するのが「価格」「間取りや広さ」「立地」だろう。ただし、その時々の住宅市況によって、そのいずれをより重視するか、いずれを妥協するかは、変わってくるようだ。一方で近年は、省エネ性や災害対策など、住宅の性能に関する関心も高まっている。異常気象、猛暑、ゲリラ豪雨、巨大地震への不安などが、住まいの重視項目を変える可能性もある。 ●関連サイト 国土交通省「令和5年度住宅市場動向調査の結果をとりまとめ」
山本 久美子