「SHOGUN 将軍」を世界が称賛の理由は?“正しい日本感”にとどまらない映像美、艶やかで強い女性陣…エミー賞18冠も納得の完成度
俳優の真田広之がプロデューサー・主演を務めた「SHOGUN 将軍」が、9月15日(現地時間)に授賞式が行われた第76回エミー賞にて、作品賞、主演男優賞、主演女優賞など同賞史上最多18部門を受賞した。同作がこれほどまでの高評価を得るに至った理由は何なのか。「SHOGUN 将軍」はいったい、何がすごかったのか。本編の名シーンを振り返りつつ、その“すごさ”に迫ってみたい。(以下、ネタバレを含みます) 【写真】「菊様…美しい」と海外でも話題に!“一流の遊女”菊役を演じた向里祐香 ■第1、2話:迫力の映像美がいざなう“日本” 1600年代の“天下分け目の戦い”前夜の日本を舞台に、戦国最強の武将・吉井虎永(真田)、漂着したイギリス人航海士ジョン・ブラックソーン(のちの按針/コズモ・ジャーヴィス)、ブラックソーンの通訳を務めることになったキリシタン・戸田鞠子(アンナ・サワイ)らが直面する陰謀と策略を描いた「SHOGUN 将軍」。1、2話では、網代の漁村に流れ着いたブラックソーンが武将・樫木藪重(浅野忠信)の目に留まり、虎永に面会する展開が描かれている。 全世界で1500万部以上売れた大ベストセラー「将軍」(ジェームズ・クラベル著)を原作にしているとはいえ、恐らく多くの米視聴者にとって、中世日本の政治勢力図を下敷きにしたストーリーのハードルは高め。だが、巨大セットに最新VFXを組み合わせた圧倒的な映像美がそのハードルを軽々と超え、見る者を問答無用で中世日本へといざなっていく。 1話冒頭で描かれる、難破船が霧の中から亡霊のように姿を現すシーンや、荘厳な大坂城の門をくぐって虎永が入城するシーンは大スクリーンで見ていると錯覚するほどの迫力。ブラックソーンが大嵐に出くわすシーンは、実物大の船のセットにウォータータンクから「ディズニーランドのアトラクションかよ!」と真田もうなるほどの大量の水を流し込み撮影したという。スタジオFXの創業以来、最高額の予算が投じられたという同作ならではの強烈な立ち上がりだ。 ■第3話:真田&サワイの殺陣アクション 3話では、虎永がブラックソーンに“按針”の名を与え、安全な伊豆の領地へと向かわせる。ここから虎永と宿敵・石堂和成(平岳大)の政治的駆け引きがいよいよ具体的に描かれ、ストーリーに大きく絡んでくる。 そんな3話の大きな見どころが、夜の山中での迫力満点の殺陣シーンだ。虎永は刀、鞠子はなぎなたで敵に応戦する。真田が千葉真一さんから学んだ殺陣アクションがさえわたり、サワイがトレーニングを重ねて習得したなぎなた捌きも見事。この殺陣シーンの完成度からも、「SHOGUN 将軍」の本気度がうかがえる。 殺陣シーンに限らず、日本人キャストの全所作を所作指導スタッフが現地で徹底指導。全編を通して「日本を正しく世界に伝えたい」という思いに貫かれている。 また、英語版公式サイトやポッドキャストでは、中世日本の歴史的背景などストーリーを理解するのに必要な情報がふんだんに提供されている。虎永と徳川家康など、登場人物とそのモデルとなった人物の違いも丁寧に説明され、興味があればさらに深く味わえるきめ細やかさ。FXの公式YouTubeチャンネルでは、制作現場に密着した上質なドキュメンタリーシリーズ「The Making Of Shogun」も公開されている。 「エミー賞」ドラマシリーズ部門で史上最多となる18冠を達成した「SHOGUN」だが、実はこれ以外に、短編部門のノンフィクション/リアリティーシリーズ賞ではこの「The Making Of Shogun」が受賞。作品そのものだけでなく、日本を正しく伝えたいという思いも世界に認められた。 ■第4~7話:世界を魅了した“クールジャパン”な女性陣 4話から7話にかけては按針や鞠子のいる伊豆・網代がストーリーの主な舞台となり、それぞれの立場で生きる女性たちにスポットが当たる。 4話では、按針の妻になることを命じられた武家の娘・藤(穂志もえか)の存在感が抜群。中でも、按針を守るため藤が城主に向けて銃を構えるシーンは海外を中心に大反響。日本女性のしなやかな美が、世界を魅了した。 6話では、伊豆一の遊女・菊(向里祐香)が按針と鞠子にもてなしをするシーンが強烈だ。なまめかしい菊の言葉を、鞠子がそのまま按針に通訳する。「あなたのその目で、欲しいものをご覧なさいまし。着物を脱いだ私、ありのままの私を…」。菊が作り出す艶やかな雰囲気にのまれ、鞠子の息遣いも荒くなる。3人が互いの体に触れることなく会話だけで作り出した、官能的なシーンだ。 そして7話では、最大のピンチを迎えた虎永が、茶屋の主人・吟(宮本裕子)の言葉で希望を取り戻すシーンが印象的に描かれた。生身で現実を生きる女性ならではの強さが現れたこのシーン。この後、虎永は一世一代の大勝負に出る。 ■第8話~:実力派俳優たちの息をのむ圧巻演技 8話からは、石堂に追い詰められた虎永の最後の大勝負“紅天”の一部始終が描かれる。 8話で視聴者の度肝を抜いたのは、虎永とその忠臣・戸田広松(西岡徳馬)が命を懸けた対話を繰り広げる場面。石堂に対し敗北を宣言しようとする虎永を、広松が「われらの戦を、道半ばで放り出されるおつもりか!家臣が犬死いたすのでござりまするぞ!」といさめる。そして広松は重大な決断を…。すさまじい緊張感。視聴者からも「神回過ぎて震えた」「名優たちによる圧巻の演技回」「伝説に残るシーン」と感動の声が続出した名シーンだ。 そして9話では、サワイ演じる鞠子と二階堂ふみ演じる落葉の方の圧巻演技シーンが待ち構える。幼なじみの2人は10年ぶりに再会するが、立場の変わってしまった2人にもはや、相手を理解する余地は残されていない。目に涙をためた鞠子の説得に、怒りで応じる落葉の方。かと思えば、鞠子を理解しようとする落葉の方の思いを、今度は鞠子自身がはねのける。わかり合いたいのにわかり合えない2人の哀しみが胸に迫る。 迫力の映像美に、徹底した殺陣や所作による繊細な“日本”の表現、魅力的なキャラクターに、実力派俳優陣の圧巻演技――。世界が認めたそのすごさを“日本人”として味わえることに感謝したい。「SHOGUN 将軍」は、ディズニープラス「スター」にて全話独占配信中。 ◆文=ザテレビジョンドラマ部 ※西岡徳馬の「徳」は心の上に一本線が入るのが正式表記