少子化を生きる ふくしまの未来 第1部「双葉郡のいま」(4) 高校休校 若者流出に危機感 地元定着へ選択の幅を
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が起きる前の福島県双葉郡には、双葉、浪江、浪江高津島、富岡、双葉翔陽、2010(平成22)年度末で「閉校」予定だった富岡高川内の六つの県立高があった。 「高校時代に培った同級生や先輩、後輩との結びつきが『地元愛』を育んでいた。それぞれの高校が若者の地元への定着に果たした役割は決して小さくない」。葛尾村出身で、双葉高の同窓会長を務める松本貞男さん(77)=1966(昭和41)年卒、郡山市=は母校の百年史に目を通しながら、地域にとっての高校の存在意義を語る。 原発事故後、富岡高川内を除く5校は県内外の受け入れ校を間借りする「サテライト校」での活動を余儀なくされた。2015年4月、広野町に県立中高一貫校「ふたば未来学園高」が開校したのを受け、県教委は「郡内の教育環境が整った」と判断し、2017年3月を最後に5校を「休校」とした。 双葉高は1923(大正12)年の創立以来、休校までに男女約1万8千人の卒業生を送り出した伝統校だ。歴史に裏打ちされたネットワークを有し、物心両面から同窓生を後押しした。そうした環境は、自然と地域への愛着につながった。有望な若者が数多く輩出され、地域を支えるリーダーとして活躍した。松本さんも福島大教育学部に進んで県の高校教師となり、定年前には母校の校長も務めた。
「双葉高に通ったからこそ、地元を離れがたかった。母校の校長を務められたのは何よりの誇り」と胸を張る。 県教委は少子化に伴う県立高改革基本計画を定め、全県で各校の特色化や再編を進めている。計画は双葉郡の旧5校の再開について「復興の進展や住民の帰還状況、小中学校の再開状況などを考慮しながら在り方を検討する」といった表現にとどめている。 一方、ふたば未来学園高は旧5校の「流れをくむ存在」として誕生した。郡内8町村の中学校8校を連携校とし、卒業生を優先的に受け入れる「連携型選抜」を入試に取り入れている。総合学科制を敷き、大学進学だけでなくサッカーやバドミントンなどのスポーツ系、農業・商工業、福祉など実業系を含む幅広い学びに対応する課程を整えている。 ただ、楢葉町教委によると、楢葉中の昨春の卒業生15人のうち、ふたば未来学園高に進んだのは8人で、残る7人はいわき市に進学した。浪江町教委によると、なみえ創成中では近隣市町の高校に進む生徒がほとんどだが、ふたば未来学園高が突出しているわけではない。担当者は「郡内の高校にとどまってほしいが、選択肢が限られる現状では難しい」と語る。
旧5校は廃校ではなく休校のため、制度上は再開の余地を残しているが、実現の見通しは立っていない。県教育庁教育総務課の担当者は「進学の選択肢が少ない、との指摘は真摯(しんし)に受け止める」としつつも、「連携型入試などで郡内の生徒の受け入れ体制は取れている」との立場だ。 松本さんも「復活は遠く険しいことは分かっている」と冷静に受け止める。しかし、「かつてのように地元愛を育む学びの場が減ったままでは、ただでさえ少ない若者が双葉郡を離れてしまうのではないか」と危惧した。