「大腿骨を骨折した人」の半分は5年以内に死亡しているという驚愕の事実。“ある年齢”を境に身体機能は「ガクッと」落ちる
大腿骨近位部骨折後5年死亡率は51%。がん全体の5年生存率は66.2%なので、単純に考えれば、がんよりも大腿骨の骨折のほうが生存率は低いということになります。 東京大学医学部老年病学教室の元教授で、90歳を迎えた今も骨粗鬆症財団理事長を務める折茂肇医師は、「高齢になるほど、骨が重要」と語ります。 折茂医師の新著『90歳現役医師が実践する ほったらかし快老術』より一部抜粋・編集してお届けします。 【『太ももの付け根の骨折』の年代別発生率】ある年代を境に急激に増加している ■身体機能は「ガクッと」落ちる
人が年をとるのに伴って、身体機能が衰えていくこと、病気が増えていくことは多くの人が理解していることであろう。ただ、多くの人は機能が少しずつ衰え、ゆるゆると坂を下っていくように低下していくというイメージを持っているのではないだろうか。 確かに、さまざまな調査によって出されたデータでは、そうした下り坂のようなグラフで示されることもあるが、それは平均的な統計データとしてはそうみえるだけである。 実際には、身体機能はゆるゆるとではなく、ある時期(段階)でガクッと落ちていく。身体機能の衰えや病気のなりやすさが大きく変わる、明確な境目(節目)があるのだ。
その節目が「75歳」という年齢だ。例えば、骨粗鬆症でいうと、65~74歳では、手首(橈骨〈とうこつ〉)や肩からひじにかけての上腕骨、背骨(椎体)の骨折が多い。 一方、75歳以上になると、太ももの付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)が大きく増加する。75歳を境にして骨折しやすくなる部位が変わるのだ。 大腿骨近位部骨折の年代別の発生率をみると、75歳以降で急激に上昇する(*1)。 ■頑丈であるはずの大腿骨が骨折する意味
本来、大腿骨は人間の体を支える頑丈な骨である。逆に手首(橈骨)は大腿骨に比べれば弱く、転倒して手をついたときに骨折するケースが多い。 年齢が上がるほどに骨粗鬆症が進行し、手首(橈骨)から上腕骨、背骨、大腿骨とより頑丈であるはずの骨までも弱くなって骨折しやすくなっていくのだ。つまり、大腿骨近位部骨折は、骨粗鬆症がそこまで進行してしまった結果として起こるものといえる。 また、サルコペニア(加齢による筋肉量の減少)によって筋力が低下することも一因となる。筋肉量の減少は75歳ごろから急速に進む。骨を支える筋肉の量が減ることでも骨折が起こりやすくなるのだ。さらに、筋力の低下や体のバランス機能の低下などによって転倒しやすくなることも、大腿骨の骨折が増える大きな原因となる。