「大腿骨を骨折した人」の半分は5年以内に死亡しているという驚愕の事実。“ある年齢”を境に身体機能は「ガクッと」落ちる
なぜ75歳なのか。あくまで統計でならした結果なので、個人差はあるのだが、平均的にみて70歳前後の高齢者と80 歳前後の高齢者とでは、傾向が異なる。その間に境目があるといえる。 ■高齢者研究のエビデンスは65~74歳ばかり 私は長年、老年医学の研究を続けてきたが、これまで行われてきた高齢者研究は65~74歳を対象としたものがほとんどだった。75歳以上の、現在の日本では「本当の高齢者」といわれる年齢の人々を対象とした研究はほとんどなされてこなかったのだ。
そこまで長生きする人が昔は少なかったからだというのも理由の一つではあるが、臨床試験の対象を75歳までとしてきたことも大きいだろう。老年医学に限らず、医学全般において製薬会社などが薬の承認をめざして臨床試験を行う場合、適切な被験者を対象にして良い結果を得たいと考えるのは当然のことだ。 75歳以上の高齢者はもともと持病を抱えていたり、状態が急変しやすかったりし、薬自体の効果を測定する対象としては望ましくない。また個人差が大きく、研究対象として扱いづらいこともあり、75歳以上は調査対象から外されていたのだ。
つまり、75歳以上の高齢者に関しては、医療者や研究者がよりどころにできる「教科書」が、まだ不十分な状態だ。まさに今、老年医学を研究する者たちにとっては大きな課題であろう。 慶応義塾大学医学部の百寿総合研究センターでは、100歳以上の「百寿者」を対象に研究が行われているので、研究がないわけではないが、もっと100歳の手前の80代、90代の研究がなされるべきである。 ■骨折の本当の怖さ では、なぜ骨折することがそんなに問題になるのか。骨折がなぜ全身の健康に大きな影響をおよぼすのか。そう思う人もいるだろう。
内閣府の「令和4年版高齢社会白書」では、要介護になった理由で多いのは、認知症や脳血管疾患(脳卒中)だ。しかし、骨折・転倒や関節疾患も多い。とくに女性では、骨折・転倒と関節疾患を合わせると要介護の理由の1位になる(*2)。 高齢者の骨折・転倒の背景には骨粗鬆症があり、とくに大腿骨近位部骨折は増加の一途をたどっている。骨粗鬆症財団のデータでは、1997年に9万2400人だった大腿骨近位部骨折の患者数が、2017年には19万3400人と、20年で倍以上に増えている(*3)。