あえて空気は読まない、外しの思考で新たな価値を提案 ── 人気建築家・谷尻誠
空気は読んだうえで読まないというか・・・
──ところでファッションはお好きですか? 僕、物欲があまりないんですが、服は昔から大好きなので、買いますけれども、昔ほどではないです。なかったらなかったで、困りはしないですけれど。服は、その服を作っているデザイナーが好きで、どのような思想で作っているのか聞くと、パトロン的に買いたくなります。服ももちろん好きなのでデザインを見て買うんですけれども、この人は応援したいな、と。「ホワイト・マウンテニアリング(White Mountaineering)」の相澤さんも仲いいし、「カラー(color)」の阿部さんとか。その辺が一番多いかもしれないです。それと、昔からコムデギャルソンの川久保さんは好きですね。思想がすごく好きなんです。 ──仕事以外ではどんなスタイルがお好きですか。 いい大人ですからね、服以外も昔と比べるとどんどんシンプルなものが好きになりました。かといって、なにも物がない息がつまりそうなモダンな空間は苦手なので、程よく、センスが良くて、さばけてる感じが好きです。海外の家はそこら辺に服や雑誌が置いてあって、物があるけれどもかっこいいじゃないですか。日本の雑誌を見ると物がなくなって、誰が住んでも分からないような家ばかりなので、それよりは物がある家のほうが好きですね。矛盾が好きなので、物があるのにミニマムとか。 昔はこういうのやりたい、ああいうのやりたい、と主張したい時期というか、空気が読めない初期はあったと思います(笑)。いまは、あえて空気は読まなくなりました。読んだうえで読まないというか・・・・。読めないのは残念ですけれど、読まないのは意思じゃないですか? そうやって徐々に、僕なりに大人になっているんです。
映像とかにはすごく興味があります
──次に手がけてみたいジャンルってありますか。 映像とかにはすごく興味があります。放送事故ギリギリのCMとか作ってみたいですね。今境界線が希薄になっていて、活躍している人ってボーダーレスに活躍できる人が多い。あぐらをかいていた人達が、必死にならないといけなくなった。でもその分、より良いものができるようにもなったと思います。結果的に、すごくいい状況だと思いますよ。逆に、僕らも色々な人が建築や空間を作れるようになってきているので、ちゃんとやらないといけないなという緊張感があって、むしろ楽しいですしね。 ──今一番やってみたい仕事は? ゲストハウスを作りたいです。色々な人が泊りに来てくれる。海外からもたくさんインターンも来ますし。そういった人たちがより着やすくなる。そういう状況を広島で作りたい。来月東京の事務所も新しく移転するので、それも普通の事務所なんですけれども、カウンターを作っておけば、エントランスがコーヒー屋さんになるので。設計事務所って人は着てくれないけれども、コーヒー屋さんなら人は来てくれるでしょ。バーテンが立てばバーにもなるし、商品を置けば物販のお店にもなるし。ここを使いたい人がいれば勝手に立って使ってもらおうと思って。僕らは普段お茶淹れるのに使えばいいし。そうすれば、仕事頼みたい人も様子見に来やすくなる。というのも、色々な人が来てしまう(笑)、人でにぎわっている設計事務所っていいな、と思っていて・・・。今まで建築界の巨匠たちが、建築家ってすごいんだというブランディングをしてくださっているので、僕はその堅さを少し溶かしていくことが今の自分の任務だと思っています。