あえて空気は読まない、外しの思考で新たな価値を提案 ── 人気建築家・谷尻誠
東京と広島に建築設計事務所「サポーズデザインオフィス(SUPPOSE DESIGN OFFICE)」を構え、住宅や商業空間、イベント会場、複合施設、さらにはプロダクトやインテリアのデザイン、制作まで幅広く手掛ける、いま注目の人気建築家・谷尻誠氏にインタビューした。
こんな風に思うでしょ? というところを確信犯的にやりたい
──仕事上でのポリシーはありますか? お仕事をいただくとまずは、とりあえず名前をとる、ということをいつも癖にしています。固定概念を取っ払うと意味です。たとえば、椅子をデザインしてください、となっちゃうと、背もたれが必要か、肘掛は必要か、脚は4本あるかな、座面は床から40何センチところで座れるようにしようなど、椅子を知っていると椅子のルールに陥ってしまう。けれども、要は座ることができればいい、と考えれば椅子に多様性を持たせる事ができる。そうなると、椅子の始まりとはなんだろうと考えて、もしかしたら切り株が椅子の始まりかな、段差に人が腰かけたときにそれが椅子と呼ばれるようになったのではないかなど根源的なことを考えながら、現代の椅子はどうあるべきなのか、と考える。すると新しい発想、さらには物ができるので、どんなジャンルのお仕事でもこれは共通することですね。 ──それは色々なインタビューで仰っている、谷尻さんが言うところの勘違う、意図的に外すというところですか? そうですね。基本的に性格が悪いので、その性格の悪さを利用しないと(笑)。どうせみんなこんな風に思うでしょ?というところを確信犯的にやりたい。すっごい作り込んで、めちゃくちゃ考え抜かれているけど、やってないような状態にしたい。「いい裏切りをしたい、いい違和感を作りたい」と事務所でもスタッフに言っているんですね。全然いい違和感がないね、違和感しかないね、とかそういう会話がよく飛び交う。矛盾が好きなんです僕。それは性格の悪さが手伝っている。とにかく捻くれているんです。でも捻くれていないと、新しい物は見つからないので、皆だったらこう考えるだろうから、こうしたほうがいいのかと。 例えばiPhoneを渡されて、思った以上に重いとビックリしますよね。皆iPhoneはこれぐらいの重さで、特に考えたこともないとは思うけど、受けとるときに、iPhoneの重さに合わせた受け取り方をしていると思います。でもそれが自分が思った以上に重いと、「何このiPhone」ってなるわけですよね。人ってきっとこう思うだろうから、先回りして、このように感じてもらう、という様な考えでやっています。