里親制度 なぜ受け入れ広がらず?里子への偏見も...養育歴40年のベテラン「子どもの意見をもっと聞いて欲しい」
■最初の里子 純平くん
坂本氏に里親としてのあゆみに大きな影響を与えたのが、最初に預かった純平くんの存在。3歳のときに乳児院から預かり、家庭での暮らしが初めてで、ADHDで多動などの傾向があった。小学校で周りに里子であることをカミングアウトしたことで、周囲から偏見・差別の目を向けられ不登校となった。 坂本氏は「彼が里子になった頃は、社会的養護や里親制度はあまり知られていない時代だった。やんちゃな子どもで、“施設育ちだからああなんだよね”みたいな偏見はあった」と振り返る。 その後、不登校となったことを理由に行政は純平くんを施設に戻すことにした。純平くんは坂本氏の家に居たかった。坂本氏も居て欲しかった。行政には「何度もお願いをしたが、叶えてもらえなかった」といい、「あの頃は子どもの意見表明や、子どものことを聞くことはあまりなかった。今と時代が違う」と説明した。 施設に戻った後も純平くんと坂本氏の交流は続き、「長い休みには私の家に帰ってきたし、無断で逃げてきたこともある。何度も何度も戻ってきた」。 しかし、純平くんは17歳の時、バイク事故で亡くなってしまった。坂本氏は「私たち家族が旅行に行ってる間に彼は亡くなっていた。海外に行っていたので、連絡がつかなくて、その頃は携帯もなかったので、家に戻ったら長いFAXが入り続けていた。それを見て彼が亡くなったことを知った」。 当時の行政側の対応について、「子どもがどうしたいか。過去も今もそうだが、優先的に絶対聞くべきだと思う。どこで誰と一緒に住みたいか、子どもの意見として絶対に大事なことだと思う」と述べた。
■登録里親数1万6817世帯のうち約7割が未委託
そもそも里親になるためには、児童相談所に申請し、勉強や実習などの数日間の研修、家庭訪問で養育環境などの調査を経て、登録する。厚生労働省によると、登録里親数1万6817世帯のうち、児童を委託されている里親は4940世帯(2022年度)で、約7割の里親が未委託だ。主な理由は「里親の希望(年齢や性別など)に合う児童がいない」、「家庭事情で一時的に受託を希望していない」、「里親が短期委託、一時保護委託を希望」などが挙げられる。 また、里親と子どもの関係悪化が原因で委託が解除されてしまう里親不調の件数は、2015年度の22人から右肩上がりで伸び、2021年度には44人となっている。 社会福祉学者・日本女子大学教授の林浩康氏は「子どもが背負っている背景の重さもある」といい、「被虐待的な体験や、親と別れて暮らすことに大きな喪失感を感じる。それによって、初めての家庭に行ったからこその行動化が促される面がある。そういう行動の意味をきちんと伝えて、どう対応したらいいか、支援者がきちんと伝えればいい。でも支援者が成育歴を把握しているわけではないので、里親さんも支援者も子どもの行動に戸惑ってしまうことはあるかと思う」と説明した。 里親と里子のミスマッチについて、坂本氏は「新しい若い里親さんは、自分のできる範囲内からスタートしたい気持ちがあるのも当然な気はする。ただいろんなところで経験を積んで、自分のキャパを広げて、どんな方でもOKと言えるぐらい、ちょっと太っ腹な里親さんがどんどん増えていってもらいたい」。 坂本氏も最初の頃は、(里子の年齢や性別などの)希望を出していたが、「やっていくうちに、今はそうじゃない子どもをお願いしている。だから経験は大事だと思う。里親が高年齢化していると見るのではなく、経験値が上がっているという側面も見ていただきたい。身体が続く限りやりたい」と述べた。 (『ABEMA Prime』より)
ABEMA TIMES編集部