高校卒業後の進路希望は「ホテルマン」楽天ドラ1古謝樹をプロで勝てる男に変えた大学時代の恩師の一言
交流戦で球団初優勝を飾った東北楽天ゴールデンイーグルスはきょう28日、山形で行われる西武戦でドラフト1位ルーキー左腕・古謝樹(22)が先発予定だ。西武のエース今井達也(26)との投げ合いに注目が集まる。 二軍で打ちまくっても一軍昇格ならず ドラ1ルーキーDeNA度会隆輝が抱える「技術以前の問題」 古謝は5月に一軍に昇格し、プロ2試合目となった6月8日の中日戦で終始走者を背負う苦しい展開ながら6回2失点の粘投。うれしいプロ初勝利をあげた後、敵地・バンテリンドームで控えめに両手をあげた。そんな教え子の姿を毎試合TVで見ているのが、桐蔭横浜大時代に指導した恩師、齊藤博久監督(58)だ。 「最初に見た時は本当に細かったからずいぶん大きくなったな、という印象です。最初に古謝が試合で投げる姿を見たのは高校3年生の5月ごろ。私は以前から『背の高い左投手はコントロールが悪い』というイメージがあったんですが、古謝は身長が182㎝ぐらいあるのに、指先が器用でいろいろな変化球を操れて、ストライクをとれた。その時は『プロになれる』とは思いませんでしたが、チーム(桐蔭横浜大)を助けてくれる投手にはなってくれると感じました」 当時は今より20㎏ほど軽い、体重50㎏台。古謝はその後、夏の神奈川大会も3回戦で県立相模原高校にコールド負けを喫し、高校野球はあっさり終わっていた。 「本人から直接聞いたことはありませんが、高校卒業後はホテルマンになりたい、という情報は聞いていました。野球を続ける自信もなかったようですが、ウチはチーム内で守らなければいけない規律を大事にしながらも、練習は自主性や個性を重んじるスタイルでおかげさまでリーグ戦で17度優勝しましたので、このスタイルを気に入ってくれたようです。 古謝の練習の様子を見て、ホテルマンになりたいと考えたことに納得しました。一生懸命やっていても、内面の熱い気持ちが表に出てこない。お客さんに気持ちよく過ごしてもらおうと一歩引いていろいろ考えを巡らせる職業と、控えめな古謝とダブる部分はありました」 古謝の前に、桐蔭横浜大から6人のプロ選手を輩出した齊藤監督は投手・古謝に非凡なものを感じていた。球のスピンが効いていて、ホームベースに近づいてもスピードが落ちないのだ。 「この質のいいボールを投げる術は教えてできるようになるものではないんです。高校時代はプロから誘われたり、成功体験があったわけではないので、自信がないのは仕方がない。でも、私はウチで勝てる投手になって、社会人でもやれるんじゃないか、という手ごたえもありましたので、古謝が入学してからしばらくは『お前は自分が思っているよりずっといい投手だぞ』ということを言い続けました」 神奈川県内の自宅から通っていた古謝は、湘南学院高時代はあまりやらなかったウェートトレーニングに重点的に励み、体が重くなるにつれ、球速もアップした。練習の合間には古謝が自宅から持参したおにぎりをほおばる姿もあったという。最初の転機は桐蔭横浜大学でのデビュー登板となった2年の春のリーグ戦・神奈川工科大戦で八回2死までノーヒットノーランだった。 「ボールがキャッチャーミットに収まってから打者がスイングしていた。それぐらい古謝の投げたボールがホーム付近で伸びていたんです。私がベンチから見ていても『これは打てないな』と。あの試合で自信をつけてくれました」 古謝のボールが速く見えるもうひとつの要因は、テイクバックが小さく、ボールの出どころが見えない独特のフォームだ。それは、湘南学院高が同じ県内の甲子園常連校、横浜高校の元部長だった小倉清一郎氏を臨時コーチに招き、横浜高校OBでロッテ、ヤクルトで活躍した成瀬善久(現・栃木ゴールデンブレーブス選手兼ヘッドコーチ)を目指すよう指導された。大学入学後も、古謝は体の幅より少しだけ広い1mに満たない幅にネットを置いて、ネットに腕があたらないように投げるフォームを何度も繰り返していたという。