高校卒業後の進路希望は「ホテルマン」楽天ドラ1古謝樹をプロで勝てる男に変えた大学時代の恩師の一言
エースになると、齊藤監督は逆に“雷”を落としたこともあった。3年春のリーグ戦、横浜国立大戦で2回で5失点。この試合を迎える前、ピッチングの量が少なかったことを気にした同監督は試合を迎える前の練習で「大丈夫か?」と聞くと古謝から「大丈夫です」と力強い言葉が返ってきた。全幅の信頼を置いていたにもかかわらず、大きく裏切られる投球内容に、齊藤監督は怒りを抑えられなかった。 「試合後にこっち(大学に)戻ってきて、エラく怒りました。『お前が大丈夫って言うから任せたのに、この結果か!』と」 チームはその後、逆転勝利をおさめたため、古謝は負け投手にならずに済んだが、翌日も古謝は最終回にマウンドにあがった。この時、三者連続三振。しかも初めて150キロを計測したのだ。お灸を据えられたマウンドで予想以上の結果を示す、たくましさが身についていた。 この年の秋は5勝をあげてリーグ優勝に貢献。リーグ戦の最優秀賞にも輝いた。プロのスカウトの注目度も高まっていたエースに、齊藤監督はこんな言葉をかけていた。 「『プロに行くことではなく、プロに行ったらどう活躍するかを目標にしろ』と言いました。古謝は初勝利をあげた後に『やっと始まったかなという感じがする』『これからもひたむきに頑張りたい』とコメントを残していましたが、本音だと思いますよ。 私としてはそれでも古謝だけでなく、プロに行った他の選手に対しても不安のほうが大きいんですよ。古謝については彼の性格の優しさが、時としてマイナスに働くかもしれません。ですから、プロにいる周りの方に自信をつけてもらい、実績を積み上げられれば、必ず勝ち続けられる投手になると思います」 齊藤監督が古謝だけでなく、桐蔭横浜大の野球部に入部する1年生に必ず問いかける質問があるという。 「人間はどんな使命をもって生きているか、わかるか?」 その答えは「人間は成長して死んでいかなければいけない使命がある」 齊藤監督は大学に来る前、水戸短大付属高校で野球部監督をつとめたが、2度退任している。監督に復帰した後に同高を甲子園に出場に導いたにもかかわらず、2度目の退任理由は「結果責任」だった。野球を教える場がなくなり、体育教師として生きていくと覚悟をきめたとき、「人生って何だろう?」とつきつめて深く考えた。そこで得た境地を今、教え子に伝え続けている。野球をやっていても、そうでなくても、昨日より今日、少しでもよくなるように努力しよう……。貪欲に2勝目を目指し、さらに成長を求め続けるのは、古謝本人にとってはごく普通のことなのかもしれない。
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