対外価値で見た「国富」は、実に26%の減少。つるべ落としの円安を誘発した異次元緩和は日本人を貧しくする政策だった!
「バリバリの金融実務家であった私が、わからないことがあれば一番頼りにし、最初に意見を求めたのが山本謙三・元日銀理事です。安倍元総理が、もし彼がブレインに選んでいたら、今の日本経済はバラ色だったに違いない」 【写真】対外価値で見た「国富」は、実に26%の減少。 元モルガン銀行・日本代表兼東京支店長で伝説のトレーダーと呼ばれる藤巻健史氏が心酔するのが元日銀理事の山本謙三氏。同氏は、「異次元緩和」は激烈な副作用がある金融政策で、その「出口」には途方もない困難と痛みが待ち受けていると警鐘を鳴らす。 11年に及んだ異次元緩和は市場機能にさまざまな歪みをもたらした。象徴的なのが為替市場だ。現在は落ち着きを取り戻したが、2024年7月には1ドル=161円台後半まで下落した。いまなお実質実効為替レートでみれば、ニクソンショック直前の1ドル=360円程度に相当する円安レベルが続いている。急激な円安は輸出企業に空前の利益をもたらしたが、一方で、対外価値で見た「国富」は約26%も減少した。知らず知らずのうちに私たちの資産は、約4分の3に目減りしていたのである。はたして、異次元緩和がもたらした急激な円安は日本経済と日本人にとってプラスだったのろうか。 ※本記事は山本謙三『異次元緩和の罪と罰』から抜粋・編集したものです。
為替市場で進んだ大幅円安
市場機能のゆがみは、国債や社債、貸出の市場にとどまらず、他の金融市場にも波及した。とくに顕著に表れたのが、為替市場である。円相場は、2023年秋に1ドル=150円まで円安が進み、2024年7月には1ドル=161円台後半まで下落した。 為替相場には、1ドル=160円といった名目為替レートのほかに、実質実効為替レートという指標がある。実質実効為替レートは、貿易相手国・地域の貿易額で加重平均し、さらに内外の物価変動率格差を調整して算出した指数をいう。相対的な通貨の実力を測るための総合的な指標であり、中央銀行の世界的な集まりであるBIS(国際決済銀行)が算出し、日銀のホームページ上にも掲載されている。 2024年春の円相場の実質実効為替レートは、1971年8月のニクソンショック以前の、1ドル=360円時代をさらに下回る円安水準まで下落した(図表5-3)。1ドル150~160円という名目の為替レートは、名目値から受ける印象以上に、大きな円安である。 この動きを捉えて、日本経済に対する信認の低下、あるいは国際競争力の低下とする見方もある。もしそうであれば、きわめて深刻だ。これまでのところは内外金利差の拡大の結果とみなしてよいだろうが、十分に留意しておくべきことである。 2022年から23年にかけて、海外の金利は、物価の高騰を受けて大幅に上昇した。一方、国内金利は日銀の異次元緩和の継続によってゼロ近傍に抑え込まれ、内外金利差が拡大した。投資家は市場のゆがみを捉えて収益機会を窺う。内外金利格差が拡大しているにもかかわらず、長期債市場では、日銀による金利抑え込みによってリスクテイクの機会が限られた。その結果、市場のエネルギーは為替市場に向かった。 24年3月の異次元緩和解除後、円相場は7月に1ドル=161円台後半まで下落した。その後、米国の景気後退懸念の台頭や内外金利差の縮小見通しから8月には1ドル=141円台まで一挙に反転・上昇した。それでもこの水準を実質実効為替レートでみれば、ニクソンショック直前の1ドル=360円程度に相当する円安レベルにとどまっている。
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