対外価値で見た「国富」は、実に26%の減少。つるべ落としの円安を誘発した異次元緩和は日本人を貧しくする政策だった!
円安は日本経済にとってプラスだったか
大幅な円安のおかげで、海外からみれば、日本のモノやサービスは値段がなんでも安く見える。その結果、インバウンドの観光客が増加し、外国の投資家や個人による日本国内の土地や株式の購入も多額に達した様子だ。 一方、国内からみれば、海外のモノやサービスは値段がなんでも高く見え、海外への出張や観光を手控える動きが広がっている。それほどの円安である。 では、円安は日本経済にとってプラスなのか。日銀の為替相場に関する基本的な見解は、「経済や金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましい」というものだ。この表現は、1970年代から一貫して変わらない。 ただし、2021年春に内外金利差の拡大から円安が進行した際には、日銀は異次元緩和継続の姿勢を崩さない理由として、①物価のプラス幅はいずれ縮小すること、②円安は日本経済にとって全体としてプラスであることをあげていた。のちに円相場の「短期間での過度の変動」を牽制する指摘が付け加えられたが、基本的には円安はプラスとの見解にあった。 この見方は、為替相場の変動がもたらすプラス、マイナス両面のうち一面だけを強調した表現だ。円安のプラスの側面は、前述のとおり、インバウンド観光客を増やし、消費(=サービス輸出)の押し上げに寄与したことだ。2023年5月に新型コロナの感染症分類が5類に引き下げられて以降、観光地は賑わいを取り戻し、京都などではホテルの建設ラッシュが始まった。 円安が寄与するもう一つの経路は、海外投資収益の押し上げだ。貿易面では以前のような輸出押し上げ効果は小さくなったが、企業が海外投資で得た収益は、円安により円換算額が増え、株価の押し上げにつながっている。ただし、海外投資収益自体は、半分程度が海外での再投資となって海外に再還流しているため、見た目ほどには国内経済の押し上げにはつながらない。 しかし、円安がプラスに働く背後には円の対外価値の減価がある。円安は海外の人にとっては対外購買力の向上である一方、日本に住む人にとっては対外購買力の低下となる。 海外からの観光客が日本で安くサービスを受けられるのは、国内の労働力が円安の結果安売りされているからにほかならない。観光業に従事する人々の収入が増えても、その収入で海外から買えるモノは減っている。これが円安のマイナスの側面だ。 海外投資も同様である。円安で投資収益の円換算額が増える一方で、海外への投資コストは膨らみ、直接投資のハードルが上がった。近年大幅に拡大した海外投資収益は、皮肉なことに、2010年代までの円高の時代に行われた対外直接投資の成果である。為替相場の動きは、プラスマイナス両面からの評価が重要である。
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