女子レスリングのホープ 金メダルの意味
世界選手権 日本チーム初メダル
3日目を迎えたレスリング世界選手権で、日本チームにようやくメダルをもたらしたのは、幼い表情がときどき高校生のようにみえる20歳の登坂絵莉だった。女子48kg級優勝は、表彰台に届かぬ二日間を過ごした日本にとって待望の金メダルだったが、登坂にとっては約一年、待ち焦がれた色のメダルだった。 「もう一年経つんですね」 昨秋、初めて日本代表として出場した世界選手権決勝では、試合終了後に判定が覆されて終わった。不可解な審判団の決定で敗れたが、登坂は審判への不満を一切口にせず、はっきり得点をして勝てなかった自分の至らなさしか言葉にしなかった。 同じ大会にはレスリング界の伝説、アレクサンドル・カレリンの記録を超える世界13連覇がかかった吉田沙保里が出場していた。その吉田の記録を見届けるため、五輪に匹敵するほどの多くの記者が日本からやってきていた。彼らに覆われるように囲まれた身長152センチの登坂は、涙をこぼさないと決心しているかのように空中の一点を見つめながら、質問に答え続けていた。 あれから一年、今度はほほえみを浮かべながら登坂は「本当に嬉しい」と口にした。 「この一年、世界一になるためにやることがたくさんあって、本当に早かった。なかなかきちんと勝てなかった日本での試合もあったし、ユニバーシアードにも出たし。この間も、もう一年も経つんだねと話したばかりなんです」 日本代表となって2年目の登坂だが、昨年はまだ「きちんと勝った代表じゃない」との思いが強かった。国内の試合で勝ったり負けたりを繰り返していたのだ。 ところが、世界選手権で金メダルに届かず終わってからの登坂は、かえってチャンピオンらしい試合をするようになった。テクニックはあっても、それが得点に結びつかないと慌ててしまい失点へ至る、浮き足立つような態度がみられなくなった。そして、今年は「きちんと勝って日本代表」の座を射止め、ユニバーシアード世界大会、世界選手権と続けて優勝した。