女子レスリングのホープ 金メダルの意味
スタイルは「オールラウンドプレーヤー」
登坂のレスリングスタイルは、スピードのあるタックルが強烈なイメージに残る吉田沙保里とは異なり、必殺技をひとつあげるのが難しい。しかし「オールラウンドプレーヤー」と栄和人・女子レスリング日本代表監督がいうように、様々な体勢から得点へ結びつけられるのが強みだ。課題は、筋力にまさる相手と組み合うと、まだ時折、振り回されることがある点だろう。 世界一になったというのに登坂は「他の階級と比べると、今年の48kg級はレベルが低い。世界も日本もみんな強いので、私はまだまだ弱いです」と言う。 確かに、今大会の女子48kg級にロンドン五輪のメダリストは誰も出場していない。だが、金の小原日登美はすでに引退。銅の二人、カナダのキャロル・ヒュンも引退し、ハワイ出身のクラリサ・チャンは一線を退くとみられている。銀に終わったアゼルバイジャンのマリヤ・スタドニクは出産のために休養しているが、地元紙のインタビューでリオ五輪について前向きな発言が報じられており、五輪メダリストの中で唯一、今後も現役選手を続けそうだ。
世代交代の波が押し寄せるレスリング界
女子レスリングは五輪3大会を経て、ようやく世代交代の波が起きようとしている。 ロンドン五輪に出場した選手は、日本だけでなく世界を見渡してもアテネ、北京と連続して同じ選手が代表という国が少なくなかった。48kg級のメダリストをみると、銀のスタドニクは25歳だが他は全員、アテネ五輪以前から世界のトップクラスを競っていた30代のベテランばかりだ。そして、彼女たちのような女子レスリングの黎明を彩ってきた選手はいま、引退の時期を迎えている。あとを引き継ぐのは登坂たちの世代になるだろう。 いまだ競技としては発展途上といわれる女子レスリングのなかで、最軽量の48kg級はもっとも早く成熟してきたと評価が高い。レスリングらしいスピード、技の攻防やかけひき、力強さを選手が発揮し、様々な特徴をもった選手が世界中に存在している。日本で勝てば即、世界一と言える単純な構図はもはやない。だがもし、この階級を日本が制し続けられるなら、これからも日本の女子レスリングは世界をリードする立場でいられるだろう。 日本が2020年東京五輪の時代にも女子レスリング強国でいられるかは、女子48kg級の動向に注目すべきだ。そして7年後、27歳になった登坂絵莉は、世界の女子レスリングを代表するレスラーとして五輪を迎えているかもしれない。 (文責・横森綾/フリーライター)