【#みんなのギモン】“動物虐待”か? 炎上する伝統行事 当事者の本音は…
「馬が地面に叩きつけられている」、「神事の名において暴力が行われている」などと批判が高まり、三重県桑名市の700年の伝統行事『上げ馬神事』が近く改善策を示すことになりました。今、動物を扱う各地の伝統行事にも「虐待ではないか」との厳しい目が向けられています。 当の地元の人たちはどう思っているのでしょうか。話を聞くと、「一概に否定しないで…」切実な思いも。 (報道局 調査報道班 小野高弘)
■SNSで広がった批判 馬が神事で骨折し殺処分に…
「祭りが中心の町で馬は大事な存在です。虐待だと考えたことは正直なかったです」 そう話すのは、上げ馬神事に30年以上参加してきた石川信介さん(45)。今年5月、石川さんが共同馬主として育ててきた馬が神事で転倒し骨折、殺処分になりました。 「本当に悲しいです。愛情をかけてきましたから」 ところが皮肉なことに、石川さんの馬が殺処分となったことが祭りへの批判に火をつけ一気に広がりました。 SNSの力です。 けがをした馬の脚の写真や、馬が転倒したり激しく叩かれ興奮させられたりする過去の動画が次々にアップされ、「動物虐待」という言葉とともに拡散されていきました。「#上げ馬反対」などのキャンペーンが展開され、廃止を求めるネットでの署名は3万1000筆以上が集まりました。かねてから獣医師などからも「馬を興奮状態に追い込んで壁を越えさせる虐待行為だ」との批判がありましたが、5月以降だけで三重県には3000件の苦情などが寄せられています。 批判は石川さんの元にも寄せられるといいます。 「批判されるのは当然だと思います。ただ、町が過疎だと言われる中で、若者たちが町にとどまっているのは祭りがあるおかげなんです。私自身、この町に育ててもらった恩返しで馬を育ててもきました。それで虐待だと言われたら、私らが無知だったということだと思います」 神事を行う多度大社は今、改善策を検討しています。
■「伝統はいったん失うと…」「根付いたものを一概に否定しないで…」
沖縄県糸満市の伝統の祭り「糸満ハーレー」では、海に放たれたアヒルを素手で捕まえる催し「アヒル取り競争」に2011年、県側が「首や脚を強くつかむのは不適切」だとして改善勧告を出しました。動物虐待だと中止を求める声は今もあがっています。 行事委員長の東恩納博さんは、批判を受けながらも催しを継続してきました。 「海の神様に漁の無事故と豊漁を感謝する祭りですよ。食用のアヒルを海の神様にお供えする意味で放って捕獲するんです。アヒル汁は沖縄の食文化でもありますから」 会場では、首や羽などを強く握らないよう呼びかけられてもいますが、アヒルを追いかけ回す行為自体にも疑問が寄せられています。東恩納さんは… 「アヒルは泳ぎが達者なんですから…。それを人間がいかに捕まえるのか、アヒルと人間の知恵比べの意味があるんです。首をつかんでも、陸にあがったらアヒルはピンピンしていますよ。毎回、アヒルに怪我がなかったかなど警察にも報告していますが、少なくともこの7年、アヒルが死んだことは、ありません」 その上で記者は聞いてみました。 「おもちゃのアヒルに変えてはどうかとの意見もありますが」 小さくため息をついた後、東恩納さんはこう続けました。 「伝統は、いったん失うと戻りません。この糸満に根付いたものを一概に否定しないでほしいです。やさしく見守ってほしいです」