SNSでデマを見抜けず拡散...「自分で考えられない人」がハマる落とし穴
「みんなやっている」の「みんな」は思い込み
日常で得られる承認には、大きく分けて2種類あります。 一つは、努力や研鑽を積み重ねた上で生み出される成果や、ほかに類を見ない希少性が認められて得られる承認です。もう一つは、場の空気などを敏感に察知して期待に応える言動を取ったり、その場で浮かないように振る舞ったりすることで得られる承認です。 前者の承認は、その人自身の要素によるところが大きいですが、後者の承認は、その人ではなく、その人のまわりを取り巻く人々が要素となります。つまり、価値の判断基準が「外」にある承認なわけですが、この承認は前者と異なり、誰かを犠牲にすることがあります。 たとえば、まるでお笑いタレントかのように、知人をネタにする(いじりネタ)、あるいは自らをネタにして(自虐ネタ)笑いを取るなどの方法です。自虐ネタはともあれ、いじりネタは自らの周辺を気持ちよくし、承認を得られるかもしれませんが、必ずほかの誰かを犠牲にします。 これは、いわゆる同調圧力による笑いの強制であり、同調圧力による被害者への受忍要求です。とりあえず「笑いを取る」という結果を得て、承認欲求は満たされるでしょうが、本質的な正解ではないかもしれません。 このような関係性がまかり通るのは「みんなが求めてるから」とか「みんなやってるから」という、思い込みの上での正解なのです。 「バンドワゴン効果」という言葉をご存じでしょうか? これは、多数が選択する結果が正解と判断し、追随してしまう現象を言います。まさに、判断基準が「外」にあることに起因して生じる現象ですが、この「多数の選択」が本質的には正解とは言い切れません。 そもそも、自身が見聞きした「多数」すら、ただの思い込みの場合もあるのです。このように判断基準を「外」に置いた場合の「承認」は、人を誤った方向に導き、本質的な正解に近づく情報収集を阻害することがあります。
もしかして「自分は大丈夫」とか思ってます?
2024年1月1日に発生した能登半島地震の際に、多数のデマが拡散されました。Ⅹ(旧Twitter)上で「建物が倒壊し挟まれて動けないから、救援お願いします。住所は○○○」とか「津波到達になった瞬間NHKのアナウンサーがすごい怒鳴ってる! 能登半島の方、逃げてください」といったデマの数々です。 これも典型的なバンドワゴン効果で、本質的な正解ではない行動を多くの人が取ったと言えます。デマを仕掛けた側は、先に述べたインプレッション稼ぎが目的だったわけですが、これを拡散した人々に悪意はまったくありません。むしろ善意でおこなっているのですが、その行為が社会的には悪影響を与えてしまったわけです。 悪影響に加担するくらいであれば、デマを見抜けない人は「疑わしい投稿はシェアしない」と決めればいいわけです。 ところが、実際には何万もの拡散がおこなわれました。これは「自分は大丈夫」と思っている人が思った以上に多く、しかも大丈夫と思っている人が大量に騙されているということです。地震という非日常な状況であり「冷静な判断ができなかった」という見解もあるでしょうが、これに関しては「正常性バイアス」というものもあります。 正常性バイアスとは、人間が非常事態に出くわした際に、多大な不安や恐怖のストレスから、身を守るために無意識で平静さを保とうとしている働きです。ですから、悪いことばかりではありません。過度に取り乱したりしないので、二次被害、三次被害にあうことを回避するメリットもあります。 一方で、事態を過小評価するデメリットにもつながります。東日本大震災のときに「自分は大丈夫だろう」と誤った判断をして、二次災害にあってしまった人が大勢いたことを覚えている方も多いでしょう。ですから、日ごろから「自分は大丈夫」と思っても「実際には大丈夫ではない可能性がある」と認識を持つことが大切です。