丸亀製麺のハワイ店の成功物語はここから始まった 朝のジョギング中に偶然出会った好物件
たった8坪の焼き鳥屋からスタートし、アジア・欧米に271店舗を構えるセルフうどん店「丸亀製麺」を創業したトリドール。世界最高峰の外食企業を目指す、同社社長・粟田貴也の「勝ち筋をつかむ」経営方針とは。『「感動体験」で外食を変える 丸亀製麺を成功させたトリドールの挑戦』より、世界市場への進出と各国繁盛店を海外M&Aした際のエピソードを抜粋して紹介する。 丸亀製麺の海外1号店は、ハワイ・ワイキキにあります。空き物件を見た瞬間、頭の中に図面が一瞬で浮かび、製麺所の風情がある店でさまざまな国から来た人たちがうどんを楽しんでいる光景がイメージできました。その直感に従って店をつくったところ、初日から長蛇の列。ワイキキ店は現在、国内外の丸亀製麺の中でナンバーワンの売り上げを誇っています。 トリドールの海外進出は、2011年に始まりました。きっかけとなったのは、2009年に外食チェーンの経営者仲間とハワイの飲食店の視察に行ったことです。私にとっては初めてのハワイ。青い海と白い砂浜のコントラストが美しく、ホテルやショッピングセンターも充実しており、ハワイが旅行地として人気の理由がわかりました。南国の雰囲気も楽しく、私もすっかりハワイが好きになったのです。 早朝、ワイキキ中心部のクヒオ通り沿いをジョギングしていると、ふと空き物件が目に留まりました。ガラス張りだったため中を覗いてみると、どうやらファストフードの居抜き物件のようです。切妻屋根の平屋造りでどことなく日本家屋のような佇まい。ひと目で「いい物件だ」と感じました。 見ているうちに、「ここに製麺機を置いて、うどんを茹でる釜を置いて、このあたりに天ぷらを並べて……」と店のレイアウトがどんどん頭に浮かんできます。「ここで丸亀製麺を出店したら流行る」と確信しました。 ハワイは日本人観光客も多く、日本食との親和性が高い。テイクアウトのおむすび屋などはすでにあり、奥まった立地なのに大繁盛していたのも見かけました。しかし、全体的に価格が高い。我々であれば、もう少し低価格でおいしい食事を提供できる。そこに商機を見出したのです。 その物件には、「For Lease(貸し出し可能)」と書かれていたので、すぐに物件管理者に連絡をとりました。しかし、けんもほろろに断られてしまったのです。やはり、何の土地勘も人脈もない外国で店を出すのは無謀なことなのか。途方に暮れていたところ、知り合いがハワイで日本企業の海外進出を支援している若き実業家・山中哲男さんを紹介してくれました。 山中さんは「ここは観光客もローカルも来る唯一のストリートで、良い場所。ドンピシャで素晴らしい物件に目をつけましたね」と私の熱意を汲み取ってくれて、物件のオーナーに対し、「日本企業はいいですよ、丸亀製麺がハワイに来たらクヒオ通りもさらに盛り上がります」と説得してくれたのです。 その甲斐あって最終的には、一度は他の会社に決まりかけていたというその物件を貸してもらえることになりました。