米大統領選、トランプとハリス「鉄道政策」の争点 バイデンが進める鉄道復権の動きは継続するか
鉄道ジャーナル社の協力を得て、冷泉彰彦氏が執筆した『鉄道ジャーナル』2024年12月号「アメリカ大統領選挙と鉄道史」を再構成した記事を掲載します。 【写真100枚を一挙公開】2024年の国際鉄道見本市「イノトランス」で注目された展示車両。日立製、シーメンス製の高速列車や中国・韓国の水素燃料車両、機関車から路面電車まで各国メーカー新型の外観と車内 ■景気刺激策としての鉄道プロジェクト オバマ、バイデンの両名は、21世紀という時代においてアメリカの鉄道復権に力を注いだ政治家と言っても過言ではない。まずオバマ大統領は、2008年のリーマンショックで米国経済がどん底に沈む中で就任した。そこで景気を改善するための「刺激策」として、異例の特別法による歳出を組んだ。2009年2月に成立した新法による歳出総額は約8000億ドル、当時の日本円に換算して約72兆円という規模であった。
この枠組みの中で、約80億ドル(約7200億円)を高速鉄道など州間(長距離)鉄道のプロジェクトに、また69億ドル(約6200億円)を地方の公共鉄道建設への助成金に充てるとした。さらにアムトラックには13億ドル(約1200億円)が追加投資として承認されていた。このオバマの「刺激策」パッケージによって、フロリダ州、カリフォルニア州などの高速鉄道プロジェクトに関する調査がスタートした。また、全米各地における空港アクセス鉄道やライトレールの新設、そしてアムトラックでは環境規制をクリアする新型ディーゼル機への機関車更新が進められたのだった。
ただ、この時期も共和党は鉄道建設に対しては反対の態度を取っていた。例えば、ニューヨーク市(マンハッタン島)から西側のニュージャージーへ渡る際にハドソン川を潜る河底トンネルは長い間上下一対しかなく、これを増設する必要があった。オバマの「刺激策」にはこの第2トンネルの予算が組まれていたが、全額ではなく、応分の地元負担が必要とされていた。だが、当時のニュージャージー州のクリスティ知事(共和党)が反対したために計画は進まなかったのである。
もう1人、オバマ政権の副大統領であったジョー・バイデン氏は、2021年に大統領に就任するとコロナ禍で減速したアメリカ経済を再建するための臨時歳出立法を行った。これが2021年の「アメリカ救国法」である。この時は総額で1兆9000億ドルという巨額な歳出が組まれた。鉄道関係としては300億ドルが全国の通勤ネットワーク改善に充てられ、これによって例えばハドソン川河底第2トンネル工事はようやく着工に漕ぎ着けた。また20億ドルがアムトラックへの援助として用意され、施設の改良や車両の更新が進むこととなった。