ドラフト戦線に異常あり いまだ1位指名公表球団ゼロのなぜ?
これらの状況を元ヤクルトの名スカウト、片岡宏雄さんは、こう見ている。 「どこもできる限り競合を避けたいんだと思う。クジを外すと戦力補強として計算が立たない。ギリギリまで他球団の様子を見るだろうね。担当スカウトは、直前まで指名候補側と連絡を密に取るので『どこそこの球団から1位で行きますと連絡がありました』などという情報が入ってくるからね。当日の朝、もっと言えば、ドラフト会議のテーブル上で決まるなんてことも珍しくない。今回、問題をさらにややこしくしているのは、田中投手の故障をどう判断するかの見極めだろうね」 右肩を痛めた田中をどう評価するかで、ドラフトの模様がガラっと変貌するというのだ。 では、ドラフト前に故障を発生した選手は、指名するべきなのか回避すべきなのか。 片岡さんは、「おそらく各球団は、あらゆる手段を使って情報を入手しているだろう。もちろんドラフト前の選手との接触は禁じられているが、チームによっては裏でドクターに診させているし、その選手が通っている病院や医者を通じて情報を得る場合もある。それらの情報を総合的に判断、完治を見越して獲得する場合や、回避する場合もあるから、千差万別。 『故障で調子を落とした選手は回避せよ』が、決してドラフトの鉄則ではない。故障に目をつぶって指名したことが裏目に出たこともあるが、その逆もある。高校生ならOK、大学、社会人は要注意、肘は、靭帯やねずみ(遊離軟骨)で手術ができるが、肩や肩の後ろ部分を傷めた場合は要注意などの一応の目安はあったが、それもケースバイケースだ」という。 アマチュア時代に故障したため、他球団のマークが外れた選手をうまく指名して成功を収めた例は、決して少なくない。中日の左腕エース、大野雄大にしても、佛大時代に左肩を痛め、夏以降マウンドに立てなかったが、中日はその能力と完治の見込みを調査した上で、2010年のドラフトで単独1位指名。この年は早大の大石達也に6球団、斎藤佑樹に4球団も重複したドラフトだったが、中日は独自戦略を貫き、大野は3年目から3年連続2桁勝利をマークするなど成功を収めている。広島の薮田和樹も、亜大時代は、故障に苦しみ3年春のリーグ戦2試合にしか投げていないが、2014年のドラフト2位で指名して戦力になっている。 さて、田中には何球団が入札することになるのか。故障さえなければ12球団競合とも言われた逸材を各球団は、どう評価するのか。海千山千のドラフト戦線において情報戦争に勝利した球団が成功を収めるのかもしれない。