『光る君へ』<花山天皇退位クーデター>はあくまでドラマ…じゃなかった!「護衛は?」「血は流れなかったの?」事件の謎を日本史学者が解説
大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。第十話は「月夜の陰謀」。藤原兼家は花山天皇を退位、出家させるクーデター計画を道長らに伝える。兼家の命に従い道兼らが動き出すなか、道長はまひろに手紙を――といった話が展開しました。そこで今回、日本史学者の榎村寛之さんに、クーデター事件の謎について解説してもらいました。 本郷奏多さん演じる花山天皇に入内した井上咲楽さん演じるよし子は、そのまま「夜御殿」で…ってそもそも「入内」とは? * * * * * * * ◆花山天皇の退位・出家は無血の政変 第十話で藤原兼家の策にはまり、元慶寺で出家することになった花山天皇。翌朝には懐仁親王が即位し、一条天皇が誕生することとなりました。 ある晩、突然王様が消えて、翌日にお坊さんの姿で発見されたときには、次の王様が位に就いていた…。 考えてみたら面白い事件です。確かに政変なのですが、どこか間抜けな話でもあります。 もしかすると視聴者の皆さんは思ったかもしれません。 「あくまでドラマでしょ?」「誰も止めなかったの?」「宮廷警備は?」「門衛は?」「どんな警備体制だったの?」「王様にはSPはいなかったの?」 …などと。
◆だから平安時代は面白い しかし、寛和2年(986)の花山天皇退位クーデターは、他でもないこの日本で、千年あまり前に起こった実話なのです。 実は、すごく平安時代らしい事件だとも言えます。 これが200年前の奈良時代の皇位争いならどうでしょう。光仁天皇の皇后の井上内親王とその子の他戸親王は、天皇を呪詛した疑いで位を追われ、幽閉されて命を落としました。350年前の飛鳥時代なら、蘇我入鹿が皇極天皇の面前で斬殺され、天皇は退位しています。 王権を揺るがす事件は必ず暴力沙汰を伴っていたのです。 まあ、世界史的に見ても、国王や皇太子を廃するクーデターでは多くの血が流れるものです。国王が騙されてお坊さんになり、一滴も血が流れずに代替わりが起こるなんて、韓流や華流のファンタジードラマでも、「あまりにも緊張感のない話でリアリティーなさすぎ」と笑われかねません。 そんな「当たり前に血を見るはずのこと」が起こらなかったのだから、平安時代は面白いのです。
【関連記事】
- 本郷和人『光る君へ』藤原兼家のクーデター計画で出家させられた花山天皇。その後は修行僧のような厳しい毎日を送ることになったかというと…
- 本郷和人『光る君へ』本郷奏多さん演じる花山天皇に入内した井上咲楽さん演じるよし子は、そのまま「夜御殿」で…そもそも「入内」とは何か
- 紫式部の父・為時を「大国」越前守に抜擢したのは道長?結婚適齢期を過ぎた娘をわざわざ赴任先に連れていった理由とは…
- 『光る君へ』未登場「紫式部の姉」とはどんな人物だったのか?紫式部の婚期を遅らせたかもしれない<ちょっと怪しい関係>について
- マンガ『源氏物語』4話【帚木】抵抗する人妻・空蝉を17歳の「光る君」は強引に…「私を青二才と見くびってあんな年寄りの夫を」