「有休の買い取り」は原則違法だが、交渉次第で実現可能…会社に認めさせる3つの条件と効果的な会話テンプレ
■「従業員の有休取得」会社側は拒否できない 有休を申し出たにもかかわらず、上司が「いまは納期が迫っていて、人手も足りないからダメだ」などと拒否したとすれば、労働基準法違反となります。有休は、労働基準法第39条に規定された労働者の権利です。①入社後6カ月以上経過、②出勤率が8割以上、の2つの要件を満たす社員に付与されます。正社員だけでなく、アルバイトも同じです。会社がこの権利を侵すと6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。 【図表】買い取り交渉できる3つの有休 また、2019年4月から、企業は10日以上の有給休暇が付与された従業員には、年5日の有給休暇を取得させなければならなくなりました。有休取得を拒否されたら上司に「労働基準法で認められた権利である」と主張するのがよいでしょう。どうしても業務上のスケジュールで取得が難しいとのことならば、代わりに「買い取り」を交渉することもできます。 「有休の買い取り」は、原則違法です。有休は労働者の心身の疲労回復を目的とした休暇であり、買い取りを積極的に認めてしまうと、企業が労働者を休ませなくなってしまう可能性があるからです。ただし、例外として買い取りが認められる場合もあります。それは大きく3つのケースに分かれます。
1つ目は法律で定められた以上の有休がある場合。有休の付与日数は継続勤務年数などに合わせて法律で決まっていますが、それとは別にリフレッシュ休暇など、独自の有給特別休暇を付与している会社もあります。この場合、法律で決められた付与日数を超える分については、買い取りが可能です。 2つ目は有休の有効期限が切れてしまう場合。通常有休を使い切れなかった場合、翌年に繰り越すことが可能です。しかし、有効期限は2年と労働基準法第115条で決まっているため、それ以上の繰り越しはできません。この場合も買い取りが可能です。3つ目は退職時に消化できていない場合。会社と退職者の間で合意が得られれば、残日数に合わせて買い取りが可能です。 ■有休の買い取りに効果的な交渉方法 とはいえ「例外的に認められると法的解釈ができる」だけであって、法律で買い取り可能と明言されているわけではありません。 02年に大阪で、労働者が会社に対して「退職時に有休を買い取ってほしい」と裁判を起こした事例がありましたが、「使用者(会社側)には当然に有給休暇未消化分を買い取る義務はない」として敗訴しています。最終的に買い取るかどうかは会社側の自由です。買い取りを希望する場合は交渉が重要になり、会社が「買い取りたい」と考えるようなメリットを提示するのがよいでしょう。 退職時に消化しきれない有休を買い取ってもらいたいと考える場合、引き継ぎを交渉材料にする方法があります。多くの企業の就業規則には「退職時にはしっかり引き継ぎすること」が明記されています。しかし、退職間際まで引き継ぎをしていると、有休の消化ができなくなってしまいます。有休の取得は労働基準法により会社は拒否できないものですが、「業務の引き継ぎを滞りなくしっかりと行いたいので、取得ではなく買い取りという形にしてほしい」と前向きな提案をすることで、会社側も応じやすくなるはずです。 加えて、会社側にコスト面でのメリットを提示する方法もあります。有休消化中は会社に在籍している状態となりますから、社会保険料の負担が発生します。であれば、有休を買い取って前倒しで退職してもらったほうが会社の負担を減らすことができます。会社にメリットがあるのですから、受け入れられる可能性が高いでしょう。いずれの場合も「会社に可能な限り貢献したい」との意思を見せるのが効果的です。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年11月29日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 新田 龍(にった・りょう) 働き方改革総合研究所株式会社代表取締役 働き方改革総合研究所株式会社代表取締役。労働環境改善、およびレピュテーション改善による業績と従業員満足度向上支援、ビジネスと労務関連のトラブルと炎上予防・解決サポートを手がける。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。 ----------
働き方改革総合研究所株式会社代表取締役 新田 龍 構成=向山 勇