【最終回ネタバレなし】今からでもイッキ見したい「海に眠るダイヤモンド」 軍艦島の再現度“だけじゃない”見どころを解説
52年の人生で、戸建ての家に住んだのはたった2カ月。新築の物件もここだけ。人生の大半は古いアパートや団地のようなマンションなどの集合住宅で暮らしてきた。そのせいか、ドラマで古くて狭くてちんまりした間取りの集合住宅が出てくると、身を乗り出して観ちゃう。団地なんか出てきたら、そらもう無条件でノスタルジーにふけって凝視しちゃう。階段の幅の狭さ、天井や鴨居の低さ、明らかに狭い江戸間の畳など、昭和の日本人仕様に思いをはせる。「団地のふたり」(NHK BS)もそうだったな。 【ネタバレなし・写真12枚】神木隆之介が“金髪ホスト”に!? 「海に眠るダイヤモンド」が見たくなる豪華キャストの劇中ショット
1950年代の長崎・端島が舞台の「海に眠るダイヤモンド」も、そういう意味で凝視系作品だ。今となっては廃墟ツアーの観光地となった軍艦島の、在りし日の姿を色鮮やかに再現。島内は本土よりも豊かな生活で、活気にあふれている。炭鉱員が暮らす社宅は手狭だが、充実感と親近感と温かみがある。いい意味で騒がしくて無頓着。ゴミを平気で海っぺりに捨てる場面もあり、明るさとおおらかさを映し出す。廃鉱になる悲劇を知っているからこそ、その栄枯盛衰に興味が湧く。朝ドラの舞台にしてもいいくらい、長丁場で観たいと思った端島ライフだ。 炭鉱の労働争議や次から次へと襲いかかる天災・火災など、日曜劇場の定番風味を残しながらも、異趣なのは、昭和と平成をつなぐサスペンス要素だ。役者も納得の手練れぞろいで、制作陣の良心と矜持が伝わる。
主演の神木隆之介は二役。昭和では炭鉱会社に勤める優しい若者・鉄平を、平成ではやさぐれた下っ端ホストの玲央を演じる。島という大所帯で育ち、人を信じて何事も諦めない鉄平と、不遇な環境で人間不信が根底にある玲央。真逆の二人を演じ分けながらも、ほのかにDNAの継承も匂わせる。 後悔か、うしろめたさなのか、なんらかの秘密を抱えた端島出身の女性・朝子を演じるのが宮本信子(昭和の朝子は杉咲花という盤石の配役ね)。ストーリーテラーとしての説得力と茶目っ気、社長としての威厳、人としての品格。宮本に託して大正解。初回からこの二人がグイグイとけん引。さらに、他の役者陣も存分に魅力を発揮している。 昭和パートはなんといっても土屋太鳳が魅せた。勝気で奔放に見えるが、人知れず苦悩を抱える百合子を熱演。不幸を背負って端島に逃げてきたリナを演じるのは池田エライザ。サスペンスを島に持ち込んだ張本人で影のある役がぴったり。 平成パートは朝子の家族がコミカル&シニカルを担当してバランスを取る。優柔不断な息子(尾美としのり)や選民意識の強い娘(美保 純)らが空虚な平成を表現。異なる時代を行き来する場面転換は違和感なく滑らか。人物の言葉と感情、その背景をきちんと紡ぐので、ブツ切り感も迷子感もない。過去と現在を往復するドラマは増えたが、無駄に場面転換が多い割に描写が浅くて「今、どの時点?」となる作品も多いからねぇ。 登場人物の出自など、いくつか謎を残したまま、年末の最終話2時間SPに向かう運びもうまかったと思う(「週刊新潮」2024年12月26日号をもとに加筆・修正しました)。
吉田 潮(よしだ・うしお) テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。 「週刊新潮」2024年12月26日号 掲載
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