3億円超の新しいアルファ・ロメオの入手方法とは? 新型33ストラダーレに迫る!
書類審査を経て購入権を獲得した幸運な日本人オーナーとは
日本からエントリーしたのは20人強。書類審査で5人に絞られ、そこからひとりが選ばれた。幸せ者の名前を内野徳昭。1927年に設立された内野製作所の3代目で、1960年生まれだ。ミシンの修理、織機から始まった内野製作所は、現在、四輪二輪を問わずすべての日本メーカーのプロトタイプ用ギヤ製作を主軸に、ホンダのF1や二輪レース、トヨタのWEC参戦車両、ニスモ、ホンダ、トヨタのスーパーGT500のエンジンギアなどを手がける。 所有する自動車は現在24台で、7台がイタリア車。フェラーリは4台。「458ピスタ」以外はクラシックで、308GTBは軽量グラスファイバーボデイの与えられた希少モデル。アバルト「750GTザガート」は1957年型である。アルファ・ロメオは2台。1台は「4C」で、これは彼にとって3台目の4Cにあたるそうだ。赤、白と乗り継ぎ、現在はブルーのスパイダー・スペシャルモデル。もう1台は「ジュリアGTA」。ジュリアは2台目で赤のクアドリフォリオから乗り換えた。このGTAはなんと通勤の足、日常的に使っているという。「気を変えたくなったら4Cで出勤しています」。スバラシイ。 もう分かると思うが、内野氏は日常の足としてアルファと触れ合ううちにクルマとしての良さやドライビングの楽しさを感じ取った。それで今回のプロジェクトにエントリーしたのである。 一方でアルファ・ロメオ側が33ストラダーレを彼に託すことにしたのは、収集の目的ではなく、走ることが好きで、クルマをよく知り、自動車を愛することが伝わってきたから。くわえて彼のアルファ・ロメオのナンバープレートは2台とも33。“理想的なスポーツカー”に敬意を表してこうしたのだという。 「これ以上 ぴったりなオーナーは世界を見渡してもいない」とはプロジェクト責任者の言葉。「何より……」と、こう続けた。 「我々は内野氏の人柄に魅せられたんです。自動車への愛情と知識、ドライビング経験も去ることながら、控えめで自然体、高飛車なところのまったくない温厚な人柄。アルファ・ロメオは自動車好きの心に寄り添うブランド、フューオフの世界に足を踏み入れてもそれは変わらない。彼の存在と人柄がこれを証明してくれると思います」 33ストラダーレをライブで見るとその存在感に圧倒される。凝ったディテールとクリーンなラインが見事に調和し、優れた質感が際立つ。機能と美の融合というアルファのデザインが如何なく発揮されたマスターピース。オリジナル同様、この先語り継がれる自動車になると思うが、一方で値段が値段だけに、承認欲求や爆買いのツールに成り下がってはあまりに残念だ。 しかし本人に会ってこの懸念は払拭された。プロジェクト責任者が言った通りの人柄。個人的には“品のある自然体”がもっとも印象に残った。本当のお金持ちというのはこういう人のことをさすのかもしれない。 内野徳昭は世界に散らばる33人の幸せ者のひとりだが、何より海をわたってこういうヒトと暮らすことになる33ストラダーレこそ、幸せ物である。
文・松本葉 編集・稲垣邦康(GQ)