五輪銀メダリストで元総合格闘家の永田が11年ぶり復帰の全日本で最年長V
身近に接するレスラーへの刺激になればと、この11月には、10年5か月ぶりに社会人オープン選手権へ出場、優勝したことで、この全日本選手権への道が開けた。通じた道を進もうと決めたのには、身近な若手レスラーたちへの刺激だけでなく、世界選手権で惨敗し、リオ五輪出場枠をひとつもとれなかったいまの男子レスラーたちへの激励の気持ちもある。 「五輪のメダルの伝統は続けてほしいです。僕のときも危ないと言われたけれどつながった。だからきっと、つなげてくれると信じています。絶対に自分が五輪で金メダルをとるのだと全身全霊をかけ、これからの五輪予選とリオ五輪に挑んでもらいたい」 男子レスリングは1952年ヘルシンキ五輪から、ボイコットしたモスクワ五輪を除きすべての五輪でメダルを取り続けてきた。2000年シドニー五輪では、先に試合を終えたフリースタイルが入賞すら逃したことで記録の継続が危ぶまれた。しかし、メダル候補として無名だった永田克彦が銀メダルを獲得し、そのひとつのメダルで伝統をつなげた そして、グレコローマンスタイルのレスリングに対する永田自身の愛情もある。 「今年の世界選手権の結果をうけて、日本はグレコローマンをやめてフリースタイルに集中した方がいいんじゃないか、など厳しいことも言われました。でも、日本人だってグレコローマンで強くなれるんです。その魅力を少しでも知ってほしいし、いまの選手には全身全霊をかけて取り組んでほしい」
日本で子どものレスリングといえばフリースタイルの子ども向けルールでしか実施されていないが、ヨーロッパでは子どものときからグレコローマンに取り組んでいる。日本のレスラーがグレコローマンに本格的に取り組むのは大学入学後が大半で、永田自身、大学入学後に本格的にグレコローマンに取り組んでいる。このスタートの遅れが日本の大きな弱点だと以前から指摘されてきた。ギャップの解消をなくす方法として永田が実験的に取り組んでいるのが、子ども向けにアレンジしたキッズ向けのグレコローマン教室だ。 「子ども向けに危険がないルールをつくって、取り組んでもらっています。自分のジムで下は4歳から、上は中学生までレスリングを教えています。今日の優勝を子どもたちに見てもらえたのがうれしいですね。初めて僕の試合を見た自分の子どもが『レスリングやりたい』と初めて言ってくれた」 本当に、永田本人の個人的な欲は消えてしまったのか。念を押すと、生徒思い先生や父親の顔から少しだけ 「普通ではない何者かになりたい」と言っていたころの表情が見えた。 「どうしても最年長記録を作りたいという欲は強くなかったけれど、自分にしかできないチャレンジだと考えると誇らしかったです。誰もやっていないことを自分がやりたい、という気持ちはいつもあるので」 かつて、日本の男子レスリングの危機を救った永田克彦の貪欲さ、レスリングに対する強い思いも乗せて、レスラーたちはリオ五輪でもメダルが続くことを願う。 (文責・横森綾/フリーライター)