「俺より先に逝くなよ」 天才的な采配をふるった名将・野村克也が唯一予測を失敗した「あること」とは?
「このがらんどうの人生を、俺はいつまで生きるんだろう。俺はおまえのおかげで、悪くない人生だったよ...おまえは幸せだったか....?」 生きている間に伝えたかった「ありがとう」をこの本で。名将・故野村克也さんが綴った、亡き妻・沙知代さんへの「愛惜の手記」。 2人のかけがいのない思い出から「夫婦円満」の秘訣を紐解いていこう。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性が絶句し *本記事は、野村克也『ありがとうを言えなくて』(講談社)を抜粋、編集したものです。 『ありがとうを言えなくて』連載第2回 『「なに、これ?」ノムさんが贈った誕生日プレゼントを返品した妻・沙知代さんの「意外な」理由』より続く
口癖のように言った「俺より先に逝くなよ」
日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳だそうだ。 私は沙知代より3つ年下だが、女性の方が六年も寿命が長い。ましてや、私の妻はいろいろな意味で強い。だから、ほぼ100パーセント、私は自分が先に死ぬと思っていた。 私は一年くらい前から、口癖のように「俺より先に逝くなよ」と妻に言っていた。 返ってくる言葉はいつも同じだった。「そんなのわかんないわよ」 いや、わかるだろう、おまえが俺より先に死ぬわけがない。心の中で、そう突っ込んでいたものだ。心配性の私は、そう確信しながらも、万が一のことを思って妻にそう釘を刺していたのだ。 ところが、その「万が一」が起きた。
「万が一」で心が「がらんどう」になった
万が一に備えてと言いながら、その万が一を常日頃から想定している人間など、そういるものではない。私もそうだった。あまりに突然の出来事に、心ががらんどうになった。その状態は今も変わらない。 私は監督時代、いつも最悪の事態を想定して采配を振るった。 大エースであっても、私は信頼していなかった。先発して、初回、先頭打者のピッチャーライナーを頭部に受け、いきなり退場になるケースもあり得ると考えていた。 そうした心の準備は、リーダーの最低限の責務だと心得ていた。ところが、家庭においては、それを完全に怠っていた。 私の人生において、唯一、絶対的なもの。それはいつも沙知代がいる、ということだった。 『「あんなにぴんぴんしてたのに...」 ノムさんが語る、妻・沙知代さんとの「最後の晩餐」』へ続く
野村 克也(野球解説者)