虐待受けた子どもたちを取材した著者が語る「明日ママ」――「誕生日を知らない女の子」黒川祥子さん
子どもたちの実態を私たちはどれほど知っているか
――国が家庭養護を拡充する方針を出したり、養護施設などの関係者が心に傷を負った子どもたちのケアに必死に取り組んだりする一方で、『誕生日を知らない女の子』のなかには、養護施設での虐待のような経験を語る男の子・拓海くん(仮名)が登場します。公益財団法人全国里親会では、ドラマの内容に対して再検討の要請を出していますが、このなかで同時に「施設でも里親家庭でも残念ながら虐待は発生しています」と認めています。ドラマにはいきすぎた描写があるにしても、さまざまな過去を持つ子どもたちが一緒に暮らす養護施設という場所は、虐待が発生しやすい環境であることは事実なのではないでしょうか。 黒川さん 確かに拓海くんが語った内容は、夜もほかの子どもからのプレッシャーで眠れなかったり、腐った菓子パンが出されたりなど、ひどいものでした。ただ、『誕生日を…』は、子どもや子どもを受け入れた里親家庭への取材を基に書いたものなので、虐待があった可能性がある養護施設への裏取りは行っていません。ひとつだけ申し上げると、本を出した後に児童相談所の所長をしていた方から「これを書いて、どこかの自治体から問い合わせがありましたか?」と連絡が来たのです。これがもし欧米だったら、そんな虐待を行っている可能性のある施設があれば、すぐに行政が調査に入ると。でも残念ながらどこからも連絡はありませんでした。(※) ※『誕生日を知らない女の子』では、子どもの本名や住んでいる地域、以前入所していた養護施設の場所や名前などは全て伏せられている。 また、取材を申し込んでOKの出る養護施設は透明性が担保されている施設です。そういった「ちゃんとした」施設であっても、入所児童が負っている傷を癒すのはとても難しいことです。ましてや、ドラマのように、辛い過去を持つ子どもたちを預かっていながら、杖の音で子どもを脅かしたり、「食事の前に泣け」と強要するなんてとんでもない……。施設出身者の子たちに、「このドラマについてどう思う?」と聞いたら、「フィクションだと思った」と言っていました。その理由を聞いたら、「子どもたちの関係がフラットだから」と。子どもたちの間に階層があって、「ボス」からいじめられることもある。芦田愛菜さんが演じる主人公と新入りの女の子がすぐに仲間になることこそ嘘くさいと。出身者だからこその言葉だと思いました。