虐待受けた子どもたちを取材した著者が語る「明日ママ」――「誕生日を知らない女の子」黒川祥子さん
実母に万引きを強要されていた記憶から、無意識のうちに友達のものを盗んでしまう癖のある女の子。水虫だらけの足をして、体の洗い方を知らない、養護施設出身の男の子。自分の感情を表現することができず、長いときで数時間も「固まって」しまう子どもたち。 これらは、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)に登場する子どもたちです。同書は、虐待を受けた子どもたちを取材したノンフィクションとして、「2013年第11回開高健ノンフィクション賞」を受賞しています。虐待を受ける子どもたちのことについて、私たちは知っているようで何も知らないのではないか。そんなことを突きつけられる一冊です。 1月から開始された日本テレビのドラマ『明日、ママがいない』は、グループホームに暮らす子どもたちを主人公とした内容です。ドラマに対して「施設の実態とかけ離れている」「養護施設の子どもたちや関係者に対する偏見を助長する」などの批判が寄せられましたが、この批判に対して「表現の自由だ」という反論が起こるなど、議論を呼びました。全国児童養護施設協議会などが抗議を行い、2月に入って日本テレビが内容改善の検討を発表するという異例の事態となっています。『明日、ママ』の内容と児童虐待の今について、『誕生日を知らない女の子』著者の黒川祥子さんに思うことを聞きました。
実態が「あまりにも簡単に描かれている」
――作品を見て、感じたことを教えてください。 黒川さん まず、いろいろな設定が現実と違うということが引っかかりました。芦田愛菜さん演じる主人公たちが暮らしている場所は「グループホーム」とされていますが、グループホーム(地域小規模児童養護施設)は、養護施設よりも家庭的な普通の生活を体験させることが目的で、定員は6人。それなのに、ドラマの中での描写はとても施設的だという印象です。 ――『誕生日を知らない女の子』のなかでは、2009年から施行された「ファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)」についても説明があります。 黒川さん ファミリーホームはさらに「家庭養護」に重点が置かれた制度で、2012年3月末時点で全国に177箇所。国は養護施設だけではなく、「家庭という環境での養育」を親と一緒に暮らせない子どもたちに与えるべく、ファミリーホームを拡充していく方針でいます。 ―― 一般の人にとっては、「養護施設」「グループホーム」「ファミリーホーム」などの違いは分かりづらいです。 黒川さん 里親についても、「特別養子縁組」や養子縁組をしない「養育里親」など何種類かあります。ドラマではおそらく特別養子縁組をイメージしているのだと思いますが、特別養子縁組にしても養育里親にしても、希望者が一定の条件を満たしていることを確認した上で児童相談所が面談を行います。さらに研修を受けなくてはなりません。実際の現場では子どもの気持ちに配慮してすごく慎重に進められていることなのに、あまりにも簡単に描かれているように思いました。 ――フィクションだからいいのでは、という声もありました。ドラマの制作側は養護施設に対して取材を行った、とも言っています。 黒川さん その取材がどんなものだったのか、疑問です。「児童養護施設」を舞台にセンセーショナルな部分だけを取り上げたいという意図があったのではないかと感じてしまう。多くの人は「児童養護施設」などのことをよく知りませんから、思い込みを植え付けてしまうことになるかもしれません。また、ドラマに説得力を持たせるためには、やっぱり登場する児相(児童相談所)は児相らしくしていてほしいし、養護施設もそう描いてほしい。あまりに嘘ばかりだと鼻白んでしまいます。