「打倒中国」への決め手は? 張本智和と戸上隼輔の“歴史的一戦”の先に見えた可能性
ついに「全日本選手権史上最高の試合」も終盤戦
7ゲーム目。死闘の締めくくりがついに始まった。 ここから再び、フォアとフォアの打ち合いへ突入。フルスイングの戸上。ブロックとカウンターの張本。 と、ここで突如、まるで脱力したかのようなブロックを見せた張本が得点し、3-3。しかし、まったく同じ張本のフォア側へ渾身の全力フォアドライブをまた叩き込む戸上。意地でもブロックされたのと同じ場所を打ち抜こうとしているのがわかるコース取りだ。 死闘の締め括りにふさわしい、火の出るような卓球。戸上のフォアドライブもサイドを切るほど鋭くなる。7-7。バック対バックで、自分のパターンだと冷静な張本が取り、8-8。戸上はフォアクロスへ2本を決めて10-8。 ここで張本がまた凌ぐ。この日の張本は本当に粘りがある。バックの打ち合いを取り切り、10―10。 ジュース。ここからまだ死闘が続く。張本が12-12に追いついた一本は、フォアドライブを戸上のミドルに叩き込むアイデア。サプライズなコース取りが、こんな正念場で飛び出す。 静まり返る会場。しかし、張本はまだまだ余裕を感じさせる笑顔。これは今までの張本にはあまり見られなかった光景。このギリギリの局面でも新しいプレーのアイデアが出てくる自分を、まるで楽しんでいるかのようだ。 お返しとばかりに、また戸上が張本のミドルへフォアドライブを叩き込んで、13-12。 こんな試合は見たことがない。 最後は張本のフォアハンドが戸上を打ち抜き16―14で決着。張本は静かにその場にしゃがみ込んだ。そして解説を務めたレジェンド水谷隼氏は「全日本史上最高の試合」と称した。
これで終わりではない2人の挑戦。「打倒中国」への決め手は?
国内の男子ではこの2人の実力が突き抜けている。そのことを再確認させられた試合だった。 しかし、2人に課せられた使命はここからが本番といえる。パリ五輪に向けて、今度は「打倒中国」への日々が始まる。 では、課題はどこにあるのか? 1セット目の途中で、戸上は「早送りですか」と称してしまうほどの強烈なスピードでの動きを見せた。張本のフォア前の小さなサーブをチキータし、バックへ戻る際の動作だ。これができれば、打倒中国の夢もすぐ目の前にある。そんな気がしてしまう。 ただ、この試合はお互いが「手の内を知りつくしている者同士」の試合でもあった。あの動きは、ここに来たサーブをこの返し方をしたら、こう返球してくるはず、ということを念頭に置いての動きでもある。旧知の仲の2人は何度もこのパターンでぶつかりあったこともあるだろう。 つまり「読める相手」だということになる。そして、これは同じことが張本にもいえるのではないだろうか。張本にとっても戸上は「一球先が読めない相手」というわけではなく、勝っても負けても「相手の動きを読める相手」だろう。 ならば、中国選手と対峙した時の課題も見えてくる。 かつて水谷隼氏は「競るところまではいける。問題は最終ゲームの最後の最後で、サプライズのようなプレーを出せるかどうかなんです」と語った。そのサプライズのビッグプレーを、相手の動きを読み切れない中国相手にどう繰り出すか。その試合の中で、相手の動きのパターンを、一つでも二つでも完璧に読み切る。もしくは、使わずに残しておいたサーブがある。そんなサプライズがほしい。 これまでの中国トップ選手との試合では、最後の最後で相手の「ここでそれがくるか!」と唸らされる圧倒的なサプライズ感のあるプレーに屈してきた。その大きな壁を超える可能性が、この死闘を見せた張本と戸上には十分にあるはず。 特に、張本だ。王者に返り咲いた今大会で見せてくれた、死闘の中での「余裕」。そこから生まれる冷静な「アイデア」は、サプライズプレーを生む種となりそうな予感が漂う。 パリ五輪。張本と戸上が見せてくれる、中国を相手にした死闘。そしてその先に訪れるはずの、歓喜の瞬間を待ちわびたい。 <了>
文=本島修司