ポストグーグルグラスにソニーが乗り出すことの意義 ITビジネスアナリスト・大元隆志
ソニーが挑戦することの意義
今回のスマートアイグラスも法人市場が当面のターゲットとなっており、現在のスマートグラス市場の動向をよく研究していると推測されます。 しかし、では、ソニーからスマートアイグラスを出す意義があるかと聞かれると、下記4点の理由からあまり必要性を感じません。 1) 経営再建中である ソニーは「VAIO」のPC事業を売却し、ウォークマンの「ビデオ&サウンド事業」を分社化するなど、経営再建の真っ最中です。このような状況で優先すべきことは、収益力を高めるために自社のリソースを儲かる事業に集中することであり、ブランドを増やす時期ではないからです。 2) 市場の成長が明確ではない スマートアイグラスは、大化けする可能性もゼロではありませんが、現状ではソニーの決算にインパクトを与えるほどの大きな市場は存在していません。もしソニーがアップル並みの利益を計上しており、投資家から新規投資を迫られているなら将来に向けて市場を作る挑戦にも意義はあるでしょう。しかし、ソニーが「今」優先すべきは既存事業の収益力改善です。 3) 周回遅れであり、タイミングも悪い グーグルグラスが発表されたのは2012年。日本国内でもスマートグラスに興味関心のある企業はVUZIX社製のスマートグラスや、エプソンのMOVERIOを利用して実証実験を行っていました。この分野のシンボルであったグーグルグラスの発売中止というネガティブなニュースがあった時期に発売するのもタイミングが良いとは思えません。 4) 法人市場であり、調達リスクが懸念される スマートアイグラスの当面のターゲットは法人市場です。法人企業の中には購入する製品が複数年継続して調達、補充可能であることを選定条件に含む場合があります。事業売却を進めている最中のソニーですから、競合他社はこの点を指摘する可能性があります。 「イノベーションを失ったらソニーではない」との意見を頂くかもしれませんが、イノベーションを起こす体力を付けるために、今は「強みを強化」する時期ではないでしょうか。