トップ交代でラーメンチェーン「幸楽苑」大復活の衝撃…奇をてらわない原点回帰で客数が回復
トップ交代後の客数の劇的な変化
幸楽苑は郊外のロードサイド店が主軸の店舗展開を行っている。都市部や繁華街が中心の日高屋と比べて立地面では有利だった。ロードサイドへの出店に強いすき家は、吉野屋、松屋よりも回復が早かったし、同じ理由でコメダ珈琲店もドトールやサンマルクなどと比較して客数減の影響は限定的だった。 だが、幸楽苑の回復は遅れていた。2022年3月期は5.8%の減収、2023年3月期はわずか1.8%の増収だった。ところが、経営のかじ取りを父親の新井田傳氏が行うようになってからの立て直しは早かった。トップ就任は2023年6月。 2023年1月からの幸楽苑、日高屋の客数の推移を見ると、2023年初頭には日高屋の集客力は回復して前年を10~40%程度上回っている。一方、幸楽苑は前年の客数すら回復しない月が目立つ。 それでも幸楽苑は8月以降、ほぼすべての月で前年を上回った。2024年に入ってからは前年の10%増という好調ぶりだ。
消費者が選択しやすい価格帯とは?
復帰した新井田傳氏が手始めに着手したのがメニューの再構成だった。 幸楽苑の主力商品は490円の味噌、塩、醤油ラーメン。原材料や光熱費、人件費の高騰が続く中でも主力商品の値上げは行わず、セットを強化。好みのラーメンにギョーザやチャーハン、チャーシュー丼が付けられるメニューを設けた。単純に注文するよりも80円~150円ほど割安になるが、利幅が高いために値引きはしやすい。 また、ラーメンの価格はそれぞれ590円、690円、790円、890円の中に収まっていれば、商品を選びやすいなどの原理原則があるという。それを踏まえたうえで、味噌バターコーンや塩バターコーンを760円から690円に改めている。 830円だったプレミアム醤油も760円に改定。原則から外れている中途半端な価格帯のものを思い切って値下げした。 新井田昇氏が社長に就任してからは、季節ごとに変化する新メニューの投入、新型コロナウイルス感染拡大によるメニュー構成の変更、物価高を背景とした一部商品の値上げなどを行った。 これらはいずれも創業当初の原理原則から外れていたものだった。幸楽苑の迷走ぶりを象徴したメニューがある。2020年に期間限定で発売したチョコレートラーメンだ。 醤油ラーメンをベースにカカオオイルを加え、チョコレートとショウガをトッピングしたというもの。その味については賛否が分かれるとして、この商品がバズを狙ったマーケティング先行のものであることは明らか。 確かに話題になったのは間違いなく、その後も期間限定で発売されている。しかし、幸楽苑の客層はロードサイド主体という特性上、トラックドライバーやタクシー運転手、現場作業員などがメイン。リピート利用を度外視した商品の投入には疑問が残る。 その点、価格のお得感を全面に出し、満腹感が味わえるセットメニューを強化したトップ交代後の幸楽苑の方がファンの信頼度は高まるだろう。 幸楽苑の代表的なメニューである「中華そば」はかつて290円だった。現在は490円だ。値上げによって客離れを引き起こしたとする報道もあるが、その価格に見合う価値が提供できている限り影響は限定的なはずだ。 家計調査によると、コロナ禍以降で消費者は外食にかける金額を増やしている。その代わりに外食頻度が減っているのだ。安いことだけがアピールポイントの時代は終焉を迎えた。 幸楽苑は価格先行から質重視の新たなフェーズに入ったように見える。 取材・文/不破聡
不破聡
【関連記事】
- 「幸楽苑」「天下一品」も撤退…「チェーン系ラーメンはまずい」という先入観が“北海道進出”を阻んでいる!? 本州の人気チェーン店が北海道で失敗する深いワケ
- 「日高屋」のロードサイド店拡大は原価率抑制に心血を注ぐ「幸楽苑」と同じ轍を踏むことになるか…デフレ下で成長した飲食店がぶち当たる壁とは
- ラーメン業界の優等生「魁力屋」の新規上場で群雄割拠のラーメン業界白熱…先行する「一風堂」「山岡家」「町田商店」それぞれの戦略
- “北海道VS北陸”ご当地回転寿司チェーンの東京バトル勃発中! 4時間待ちも続出の安くてウマい地方チェーン最強寿司はどっち!?
- 丸亀製麵はなぜ“うどん業界”でぶっちぎりの1位に? とある工夫でV字回復した知られざるグループ店の躍動