センバツ高校野球 弟の雄姿、夢への刺激 健大高崎 エース佐藤投手の兄・志龍さん /群馬
◇米国留学前、立てなかった聖地で応援 「兄に『やってやったぞ』と報告したい」――。第96回選抜高校野球大会で健大高崎のエース左腕、佐藤龍月(りゅうが)投手(2年)は大会第2日の19日、学法石川(福島)との1回戦で先発し、7回を無失点、9奪三振と勝利に貢献した。その兄は米国留学を控えている。アルプス席で見守り、「素直にうれしい」と喜んだ。【早川健人】 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 佐藤投手の2歳上の兄、志龍(しりゅう)さん(18)も健大高崎の野球部員だった。2年秋の関東大会では4番を任されたが、もともと抱えていた腰の故障が昨春のセンバツ前に悪化し、無念のメンバー落ち。健大高崎は準優勝した報徳学園(兵庫)と初戦でぶつかり、2―7で完敗した。アルプス席で応援した志龍さんは「人生で初めて来た甲子園。グラウンドに立ちたかったという思いしかなかった」と振り返る。 一方の佐藤投手は中学3年で侍ジャパンの15歳以下(U15)日本代表に選ばれ、2022年8、9月にメキシコで行われたU15ワールドカップに出場。米国戦で勝利投手になるなど活躍した。進学先の選択肢はあまたある中で、兄の背中を追い健大高崎に進んだ。 昨夏の群馬大会は3年の志龍さんが背番号「15」、1年の佐藤投手が「17」でメンバー入り。高校通算30本塁打を放ちながら、故障上がりの志龍さんは代打要員。「試合中のベンチ裏で、ひたすらバットを振って準備した」。桐生第一との準決勝、好機で代打に起用されて四球を選んだものの、チームは0―1で惜敗した。佐藤投手はこの日、出番は来なかった。志龍さんの「最後の夏」は終わり、兄弟そろっての甲子園を狙う唯一の機会を逃した。 志龍さんは日本の大学には進まず米国留学の道を選んだ。群馬大会後にエージェント会社のセレクションを受け、そこで撮ったプレーの動画が米国の大学に送られた。6校からオファーが来て、ニューヨーク州立ハーキマー大(2年制)に行くことを決めた。「アメリカにはチャンスがたくさん落ちていると思った。野球だけじゃなく勉強でも。野球ができなくなった先も見据えて、経営や経済も学びたい」と動機を語る。 昨秋からは健大高崎の寮で放課後、海外留学専門の塾のオンライン授業を受けてきた。今春の卒業後は川崎市の実家から週5日、片道約1時間かけて東京都内の塾に通う。英語の読み書き、聞き取り、会話のほか一般教養として米国史なども学ぶ。合間にバッティングセンターや室内練習場でも汗を流す。「勉強はきついけれど、少しずつ慣れてきた」と充実の笑み。渡米予定は9月だ。花巻東(岩手)からスタンフォード大に進学する同い年の佐々木麟太郎選手とも「いつか対戦できれば」と夢見る。 志龍さんが試合後に電話して「甲子園どうだった?」と聞くと、佐藤投手は「普通の球場と変わらなかった」と答えた。志龍さんは「大したもの。勝ち進んで、名前を全国にとどろかせてほしい」と、明豊(大分)との2回戦も応援に駆けつけ、旅立ちの前にその姿を刺激にするつもりだ。 ◇ 23日は雨のため1回戦1試合と2回戦2試合が順延された。これに伴い、24日に予定されていた健大高崎と明豊の2回戦は25日の第1試合(午前9時開始予定)に行われることになった。