末期がんのピアニスト、宣告余命超え希望の「第九」コンサート開催へ…あと4日「絶対に見届ける」
末期がんを患う京都府京田辺市のピアニスト竿下(さおした)和美さん(50)が主催する合唱コンサートが28日、府立けいはんなホール(精華町)で開かれる。今夏までの命と医師から告げられていたが、あえてその先の開催に決め、つらい抗がん剤治療に耐えてきた。本番まであと4日。竿下さんは「絶対に見届ける」と誓う。(京都総局 相間美菜子) 【写真】ピアノ弾きのノリ漁師、予想もしなかった人生
「よく声が出ていますね」。今月1日、京田辺市の幼稚園で、竿下さんはベートーベンの交響曲第9番(第九)をドイツ語で歌い終えた子どもから高齢者まで約100人に優しく声をかけた。
合唱コンサートに向けた練習だ。竿下さんは抗がん剤の副作用で吐き気とだるさがつきまとい、足はパンパンにむくんでいる。それでもこの日、自らピアノを弾いた。「人より死が現実味を帯びて近くなったから、生きる内容を求めるようになった」
竿下さんは5歳でピアノを始め、高校は音楽科に進学。京都市立芸術大に進み、在学中からプロのピアニストとして全国各地で演奏を重ねた。
コンサートでは、自分のピアノを聴く人が笑顔になっていく。「音楽は人を幸せにする力がある」と実感し、「街中に音楽をあふれさせることで、世の中が平和になっていく」と考えるようになった。
2020年、NPO法人「京田辺音楽家協会」を設立。理事長として多くのコンサートを手がけ、裏方にも魅力を感じた。「幼少期からシニアまで、ずっと音楽がそばにあってほしい」との願いから、3世代が一緒に歌うコンサートの開催が目標になった。
充実した毎日を送っていた昨年2月、咳(せき)が止まらなくなり、病院で受診。ステージ4の肺腺がんだった。医師から「進行しており、手術はもう施せない」と言われ、宣告された余命は1年半だった。
竿下さんは「悲壮感はなかった」と振り返る。真っ先に頭に浮かんだのが、3世代のコンサートだった。合唱曲には、自身の音楽への思いと同じ平和への願いが込められた第九を選んだ。