苦闘、批判…ラグビー世界8強奪還への萌芽の検証 司令塔が物足りぬ新生日本代表で評価すべき才能
攻撃面のハイライトは前半32分のトライシーン
指揮官が挙げたターンオーバー、つまり相手ボールを奪い取るプレーの回数はウルグアイの2に対して日本は6と大きく上回っている。ここは、単なるパワーで奪ったのではなく、接点に相手以上に早く、多い人数をかけることで優位に立てている。これまでのコラムでも指摘してきたが、連敗を喫したオールブラックスら強豪国とのゲームでは、相手が戦況を読み、事前にどう動くべきかを想定しながらプレーしていたのに対して、日本は攻守両面でボールが動き始めてから、自分たちがどう動くかを判断しているような状況もあった。だが、この試合では、先に触れた集散の意識の高さ、速さでは、サポートする2人目、3人目の選手の反応が良く、ボールキャリアーがどこで接点を作るかも頭にインプットしながらプレーしていたことも成長を印象付けた。 このような接点での集散の速さと意識づけは、国内のチームですら常識だが、代表戦というハイプレッシャーの試合の中で、個別チームほど選手間のコンビネーションが十分ではないこと、仲間のプレー特性に瞬時に反応出来ないという現実もある。その中で、ランキングでは5位下の相手とはいえ、ようやく日本のテンポを作り出せたことは収穫だろう。序盤に主導権を握る展開は6月のシーズン序盤から見られたが、勝利まで持って行けたことはワンステップの前進と評価していいだろう。 攻撃面のハイライトは、前半32分のWTB濱野隼大(コベルコ神戸スティーラーズ)のトライシーンだった。自陣22mライン付近でのウルグアイボールのラインアウトで、相手がファンブルしたボールを一気に逆サイドまで展開。敵陣10mラインを突破してのラックから素早くボールをオープン展開した時点で、相手防御が付いて来られずにオフサイドの状態の中で、テストマッチ2戦目の23歳が右タッチ際を駆け抜けた。相手のミスに、BKラインが組織として素早く連動して一気に防御を崩し、重圧を受けながらも超速のパスアウトで相手を抜き去ってのフィニッシュに、日本の「らしさ」が込められていた。 後半12分のWTBジョネ・ナイカブラ(BL東京)の逆転トライが結果的に決勝点となったが、このスコアの起点も、自陣でのカウンター攻撃からSO松永拓朗(BL東京)?アイザイア・マプスア(トヨタヴェルブリッツ)と繋いだスピード抜群のカウンター攻撃に、ウルグアイが自陣ゴール前で反則を犯したプレーだった。日本のスピードのある展開に相手が対応出来ずに反則を犯す得点パターンが見え始めている。 ゲーム主将の齋藤は試合後の会見で「カード(退場者)がでているときの戦い方は一般的ではなかったかも知れないが、僕たちはアタックにフォーカスして取り組んできた。そこは変わらずに、どうやって(人数の少ない)時間を使うかという守りに入らず、ボールを持って戦い続けることにフォーカスしたことが良かった」と語っているが、指摘通りチームが終盤に入っても攻守にアグレッシブさを失わなかったことが勝因になった。 顕著なシーンは、後半29分の齋藤のPGまでの攻撃だ。ワーナーのレッドカードで残り時間を14人で戦わざるを得ない苦しい状況だったが、日本は中盤から積極的に連続攻撃を仕掛けている。両チーム共に疲労が蓄積する時間帯だったが、日本は序盤から変わらない2人目、3人目のサポートの速さでテンポを作り出し、最後は相手のオフサイドを誘い、PGで29-20のセーフティーリードに達している。直後の31分からの日本陣22mラインを挟んだウルグアイの猛反撃を、ダブルタックルを徹底しながらの防御で26フェーズまで反則を犯すことなる守り続けた3分間の我慢強さ、積極的な姿勢が防御面のハイライトだった。 80分間を通したゲーム展開を見ると、スピードのある攻撃は見せるものの、相手のフィジカルに簡単に防御を破られ、精度の悪さでチャンスを潰してしまう展開も続いている。だが、苦しい戦いの中で、相手がランキング下位のチームだとしても、終盤の粘り強い防御と、超速を見せながらの6トライ、36点というスコアに繋げたことは、若いチームにとっても自信になるだろう。シーズン序盤のイングランド戦、イタリア戦等では、80分間を通した展開の中で「点」でしかなかった自分たちの強みが、ようやく「線」になり始めたのが、新生ジャパン10戦目の80分だった。