【NBA】スパーズの暫定ヘッドコーチを務めるミッチ・ジョンソン「アイデンティティとベースはすでに存在している」
『偉大なるコーチ・ポップ』の代役を務める39歳
スパーズのグレッグ・ポポビッチは現地11月2日に軽い脳卒中を起こしてチームを離れ、リハビリを行っている。その不在は長引いているが、現地12月16日にはチームを通して声明を発表し、周囲の思いやりや支援への感謝を伝えるとともに、「私の復帰を一番に願っているのは、リハビリを担当してくれている人たちだ。私がどれだけ言うことを聞かないかすぐに知ったからね」とポポビッチらしいメッセージを発した。 まだ復帰時期は明らかになっていないが、29シーズンに渡るスパーズの指揮を執り続ける前提でリハビリプログラムは進められている。このことに誰よりも安堵しているのは他ならぬスパーズの選手たちだ。ジェレミー・ソーハンは「彼がどんな人物かはみんな知っての通り。ものすごくリハビリを頑張っているはずだ。僕らは彼の復帰を心待ちにしている」と語る。 再建から新たな一歩を踏み出そうとしているスパーズは、ここまで13勝13敗と勝率5割をキープ。激戦の西カンファレンスでプレーイン圏外の11位となるが、決して悪い成績ではない。コーチ・ポップの存在感が大きいからこそ、彼が不在でも戦えていることはチームにとって大きな自信になる。 その良い雰囲気を生み出しているキーマンは、暫定ヘッドコーチを務めるミッチ・ジョンソンだ。ポポビッチが倒れたのはホームのティンバーウルブズ戦が始まる数時間前。38歳のアシスタントコーチは、何の事前準備もないまま『生ける伝説』の指揮権を引き継ぎ、ここまで非常に上手くチームを切り盛りしている。 父がスーパーソニックで現役を終えた後、そこを定住の地と決めたため、ミッチはシアトルで育った。スタンフォード大で4年間プレーした彼は、Gリーグで数カ月を過ごした後に地元に戻って指導者のキャリアをスタートさせた。大学でコーチングを学びながら、自分で立ち上げたクラブチームでNBAチームのないシアトルの有望な若手を教え、その中にはデジャンテ・マレーもいた。 2016年にはスパーズ傘下のGリーグチーム、オースティン・スパーズのアシスタントコーチになり、2019年にはポポビッチのアシスタントコーチとなる。下積みを10年やってもまだ一人前とは見なされないNBAではまだ何も築いていないに等しいが、暫定ヘッドコーチとしての彼は素晴らしい仕事をしている。 スパーズの若い選手たちの支持を集めるのはもちろん、ベテランたちもミッチの働きには関心している。ハリソン・バーンズは「誰であってもポップの代役なんかビビってしまうはずだが、彼は勝っても負けても自信を持ち続け、常に冷静なメンタリティで仕事に取り組む」と、ビクター・ウェンバニャマは「タイムアウトでの指示は試合をこなすごとにずっと良くなっている。彼もまた経験を積んで成長している」と語る。 『偉大なるポップ』の代役をどう務めているのか──。その難しい質問にミッチはシンプルにこう答えている。「もともと私たちはグループで仕事をしているから、彼の代役を私が務めている、という見方は正しくない」 ただ、試合となれば指揮権を持つ彼が時間のない中で判断を下すことも増える。「アイデンティティとベースはすでに存在していて、それは間違いなく役に立っている」とミッチは言う。1カ月半で21試合をポップ抜きでこなしているが、「就任して以来、何も変わっていないよ」だそうだ。 自分の右腕であるミッチが代役を立派に務めていることで、ポップも復帰に向けたプロセスを落ち着いて進められる。そしてミッチにとって今回の仕事は、若いコーチが評価をなかなか勝ち取れないNBAにおいて、素晴らしい実績となるだろう。