春を告げるよりは少し早い、“今”にぴったりなロックンロール5曲
OKMusicさんが3月をもってクローズすることになりました。駆け出しの頃からインタビュー、ディスクレビュー、ライヴレポなどを任せていただき、クレジットありの仕事から裏方までやらせてもらった、思い入れの深いサイトです。10年近く連載してきたこのコラムは、“自分はどんな文章を書けばいいのだろう?”と常に自問自答するきっかけとなってくれました。今は寂しい気持ちでいっぱいですが、悲しんでばかりもいられません。今日はOKMusicさんと別れを告げるにはまだ早い、まさに“今”というタイミングで聴きたい音楽をご紹介します。
「もののけと遊ぶ庭」(’94)/ソウル・フラワー・ユニオン
「もののけと遊ぶ庭」は、ソウル・フラワー・ユニオンが1994年に発表した『ワタツミ・ヤマツミ』に収録されているダンサブルな楽曲。もののけと人とカムイ(神)が交差するのは、ハレとケの境目、煌々と輝く火が燃え盛る真夜中。リスナーの足首を捉え、手の甲を掴むトラッドなリズムは、地中の奥深くに眠る命を呼び覚ますかの如く力強く、ざらついたギター音をざわめかせながら歌う中川敬の声は、無垢とも邪悪ともとれる真の豊かさに満ちている。プリミティブな魅力が溢れながらも時代を横断する新しさが現在も輝き、ひと時もじっとさせてくれはしない。
「人間ビデオ」(’16)/ドレスコーズ
ドレスコーズが2016年に発表した「人間ビデオ」は、映画『GANTZ:0』の主題歌。志磨遼平(Vo)というアーティストの巨大さの一部を伺うことができるような、それでいて手のひらの上で踊らされているような気もする、プログレッシブな一曲だ。カリカチュアライズされた焦燥感と危機感を高速リズムで煽り、《いつか願うわ ぼくじゃない幸せを》とスローダウンしてエモーショナルなムードを作り、《最後を知るまでの永遠 このまま終わるなストーリー》と一筋の光芒を願う歌で共鳴を生み出す。3分半足らずのこの曲の中で、映画1本分のドラマチックな目まぐるしい展開が待ち受けている。
「春よ」(’17)/SION
「春よ」は、SION が2017年にリリースしたアルバム『今さらヒーローになれやしないが』の冒頭を飾る楽曲。諦観と後悔が滲み出る歌詞とは相反して、急ぎ足で駆け抜けるドラムとブルースハープは、新しい命の脈動にも似た速度で鼓膜を叩いて、音のつむじ風を巻き起こす。SIONがひび割れた声で歌い上げる《春よ 俺たちだって 何もやってこなかったわけじゃないんだ》というパートは、あなたにはどう響くだろうか。冬の時代に置き去りにしてしまった感情へのノスタルジーとして、あるいは“まだまだこれからやれるはずだ、時間はもうないのか”という早すぎるスタートへの戸惑いとして。