イスラエル首相、ガザ南部ラファでの「激戦」終わればレバノン国境に部隊移す方針 ヒズボラ対応と
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は23日、パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラム組織ハマスとの戦の「激しい局面」が間もなく終了すると述べた。これにより、イスラエル部隊をレバノン国境に移し、レバノンの武装組織ヒズボラに対峙できるようになるとしている。 ネタニヤフ首相は昨年10月の戦闘開始以来初めて、イスラエル・メディアのインタビューに応じ、ガザ南部ラファでの地上作戦が間もなく完了するとの見通しを語った。 ただし、ガザでの「戦闘の終結を意味するものではない」と強調。ハマスが完全にガザで権力の座から追われるまで戦闘は続くだろうと述べた。 イスラエルをめぐっては、隣国レバノンを拠点とするヒズボラとの敵対関係が激化しており、より広域での地域紛争につながるのではないかと懸念が生じている。このことについて、ネタニヤフ氏は「我々は複数の前線で戦える。その準備はできている」と述べた。 昨年10月7日、ハマスの武装集団はイスラエル南部を奇襲し、約1200人を殺害、251人を人質に取った。ヒズボラはこの翌日から、ハマスを支援するためイスラエル北部にミサイルやロケット弾、ドローン(無人機)による攻撃を仕掛けている。 ハマス運営のガザ保健省は、イスラエルの報復攻撃によるガザ地区の死者は3万7620人を超えるとしている。 ■レバノン国境のある「北を目指す」 ネタニヤフ氏は23日、イスラエルの放送局「チャンネル14」とのインタビューで、ガザでの現在の戦闘の局面が終了すれば、IDFは(レバノン国境のある)「北を目指す」と述べた。 レバノン国境への部隊再配置は「何よりもまず、防衛のため」だが、ヒズボラのロケット弾やミサイル攻撃により家を追われた何万人ものイスラエル人が故郷に戻れるようにするためでもあると、ネタニヤフ氏は述べた。 「可能なら、外交的にそれを行う。できないのなら、別の方法で行う。いずれにせよ、我々は(住民)全員を帰還させる」 イスラエルは2006年の戦闘終結時に可決された国連安全保障理事会決議に基づき、ヒズボラが戦闘員を国境から数キロ後退させることに同意することを望んでいる。しかしヒズボラは、ガザでの停戦合意が成立しない限り、イスラエルとの停戦には合意しないとしている。 イスラエルとヒズボラの交戦では、イスラエル北部の住民数万人が避難を余儀なくされている。ヒズボラの攻撃によるイスラエル国内の死者は、25人に上る。IDFはレバノン側に空爆などで応戦している。国連によると400人以上が死亡し、数万人が家を追われた。 国境を隔てた交戦はここ数週間、双方の脅威の高まりと共に激化している。 IDFは24日、複数の戦闘機を使って、レバノン南部アイタロウンの軍事施設や、クファルケラやキアムにあるインフラを含む、ヒズボラの多数の「テロ目標」を夜通し攻撃したと発表した。 レバノン国営通信社NNAは、アイタロウンの民家が空爆を受けたと伝えた。死傷者は報告されていないという。 IDFによると、イスラエル側の国境の町メトゥラで23日夜、ヒズボラの対戦車ミサイル攻撃があり、地元治安部隊のイスラエル人予備役2人が負傷した。うち1人は重傷としている。 米軍のチャールズ・ブラウン統合参謀本部議長は23日、イスラエルによるレバノンへの攻撃は、イランや、イランの後ろ盾を受けるグループを巻き込んだ「より広範な紛争の可能性を高める」かもしれないと警告した。 「ヒズボラは総合的な能力やロケット弾の数などではハマスを上回る。そして、イランがヒズボラにより多くな支援を提供する傾向が強まるだろう」と、ブラウン氏は記者団に語った。 アメリカがヒズボラの攻撃からイスラエルを守ることについては、4月にイランがイスラエルを攻撃した時よりも難しいだろうとした。この時は、イランが発射したドローンやミサイルのほとんどが迎撃された。 ブラウン氏は、米ワシントンを訪れたイスラエルのヨアヴ・ガラント国防相と米政府が、ガザでの戦闘における次の段階と、ヒズボラへの対応について協議する中で、ヒズボラについて言及した。 ガラント氏は出発前、イスラエルは「ガザやレバノン、さらに多くの地域で必要になり得るあらゆる行動に備えている」と述べていた。 先週にはIDFが、対ヒズボラ作戦の実施計画が承認されたことを認めている。イスラエル・カッツ外相はヒズボラは「全面戦争で」破滅するだろうと警告した。 ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師は全面的な紛争には興味はないが、もし紛争が勃発すればイスラエル国内に「安全な場所ななくなる」と述べた。 国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、この地域の人々は「レバノンをもう一つのガザにするわけにはいかない」と述べた。 ■ラファ作戦は「ガザでの最後の大規模攻撃」 ネタニヤフ氏はさらに、ラファでの7週間にわたるイスラエルの軍事作戦が、ガザ戦争における最後の大規模攻撃になることを示唆した。ラファでの作戦では、100万人以上のパレスチナ人が家を追われた。 「ハマスとの戦闘の激しい局面が終わろうとしている」とネタニヤフ氏は述べた。「(ガザでの)戦闘の終結を意味するものではないが、戦闘の激しい局面はラファで終わりを迎えようとしている」。 そして、イスラエル軍は今後も「草刈り(ハマス掃討作戦)を続けていく」と付け加えた。「我々は諦めない」。 ネタニヤフ氏はまた、今も拘束されている人質116人(うち41人は死亡したと推定)の解放を確保するための「部分的な取引」を行う用意があるとも述べた。ただ、「ハマス壊滅という目標」の完遂に向けて取り組んでいくとした。 ハマスはどのような停戦合意においても、その一部として、イスラエル軍の完全撤退と恒久的な停戦を要求している。ハマスはネタニヤフ氏の今回の発言について、ジョー・バイデン米大統領が先月に要旨を提示し、国連安全保障理事会が支持した停戦案に対するネタニヤフ氏の「明確な拒否」を示していると指摘した。 バイデン氏が先月末に発表した新たな停戦案は3段階からなる。第1段階で6週間の停戦と、イスラエル人の人質の一部(女性、高齢者、病人や負傷者を含む)の解放、パレスチナ人の囚人の一部を釈放をする。イスラエル軍が「ガザのすべての人口密集地域から」撤退し、人道支援を「急増」させることも含まれる。 第2段階では、「恒久的な敵対行為の停止」の一環として、ハマスが残りの人質を解放し、イスラエル軍はガザから全面撤退する。ただ、撤退は交渉の対象となる。 第3段階では死亡した人質の遺体が返還され、ガザの大規模復興計画が開始される。 ネタニヤフ氏は24日に議会で、自分の「姿勢に変わりはない」とし、「バイデン大統領が歓迎したイスラエル案に、引き続き取り組んでいく」と述べた。 その後、被害者家族の団体「人質・行方不明者家族フォーラム」はガザに残っている人質のうちハーシュ・ゴールドバーグ=ポリン氏(23)、オル・レヴィ氏(33)、エリヤ・コーエン氏(26)の3人が拉致された時の様子を捉えた生々しい動画を公開した。これはハマスの武装集団が撮影したものだという。 「私たちは人質全員を帰国させるための合意を結び、それを実施しなければならない。生存者にはリハビリを、殺害された者には適切な埋葬を行うために!」と、同団体は訴えた。 ■国連運営の学校空爆 ハマスもまた、イスラエル国防軍(IDF)が23日に国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が運営するガザ市の専門学校を空爆し、8人を殺害したことを非難した。IDFはハマスがこの建物を軍事目的で使用していたと主張しているが、ハマス側は「うそ」だとしている。 IDFは24日、ハマスの武器製造本部のプロジェクトと開発を担当する司令官1人を、夜通しの空爆で殺害したと発表した。 また、IDF部隊はラファでの空爆を継続しており、複数の武器を発見したほか、いくつかの地下トンネルを解体し、「武装したテロリストを多数」排除したとした。 IDFによると、IDFトップのヘルジ・ハレヴィ参謀総長はラファで展開する部隊に対し、「我々は明らかに、ラファの(ハマス)旅団を解体したと言える段階に近づいている。テロリストがいなくなったという意味ではなく、(ハマスが)戦闘部隊として機能しなくなったという意味だ」と語ったという。 (英語記事 Netanyahu: Israeli forces will move to Lebanon border as Rafah winds down)
(c) BBC News