1億円プロジェクトで歌手デビューも…喫茶店でバイト三昧だった井上あずみ「ジブリの名曲」と出合い運命をたぐり寄せて
宮崎駿監督と音楽監督をしていた高畑勲さんにはレコーディングスタジオで初めてお会いしました。「どんなふうに歌えばいいですか?」と聞いたら、「あなたの声そのままで大丈夫なんで」と言われてすごく安心した記憶があります。 試写会で映画を観て、映画の最後のほうにようやく自分の声が流れてきたとき、大きなスクリーンの前で感激しました。すごくうれしかったです。それまでいろいろ挫折してきたので「チャンスをようやく自分のものにできたな」と、この瞬間に実感しました。実は、それまで事前に「こういうことをやるんだ」と誰かに話すとうまくいかないことが多かったので、このときは誰にも言わなかったんですよ。そういうジンクスも効いたのかな(笑)。
■『さんぽ』をまさか自分で歌うことになるとは ── そして、ジブリ映画の主題歌『となりのトトロ』や『さんぽ』を歌うことにもなりましたね。 井上さん:ラピュタが終わった後に、レコード会社の方から新しい次の作品はふわふわとしたトトロというキャラクターが出てくるアニメなんだよって教えていただきました。「そうなんですね!今度は最初からまた何か関われたらうれしいです」というと「吉祥寺で制作しているからあいさつしに行く?」となって、ジブリのスタジオの一階にある喫茶店でご挨拶する運びに。『君をのせて』のレコーディングのときはゆっくり話せなかったのですが、宮崎駿監督が絵コンテを見せてくださって、「この話には、姉妹がいて心のきれいな人しか見えないもののけが出てくる。それがトトロなんだ」と。そこで初めて監督といろいろとお話ししました。そんな流れで『となりのトトロ』を歌うことが決まったんです。
『さんぽ』は当初、杉並児童合唱団が歌うと決まっていたので、まさか自分が歌うことになるとは思いませんでした。当時も私は相変わらず喫茶店でアルバイト生活中で、連絡が来て「曲に歌詞を入れる前の段階だけど、女性の声で「ららら~♪」でいいから声入れのお手伝いしてくれない?」と頼まれたんです。「声が入っていたほうが歌詞も入れやすいから」と言われて、お手伝いすることになりました。歌詞が入り続いて「子どものお手本用に元気よく歌ってくれる?」と言われて、私も合唱団出身なので当時を思い出しながら歌いました。それがよかったみたいで。最終的にそれがそのまま映画やCDで使われることになったんです。