1億円プロジェクトで歌手デビューも…喫茶店でバイト三昧だった井上あずみ「ジブリの名曲」と出合い運命をたぐり寄せて
── それでも高校卒業後の83年に歌手デビューが決まりましたね。あきらめずに夢を追い続けてつかんだチャンスだったのでしょうか。 井上さん:16歳~17歳に井上あずみとしてデビューする前に加賀千代子として活動していた時期があって、松田聖子さんやあみんさんの歌を人前で歌っていました。それでもなかなかメジャーデビューするまでには至らず、ずっと下積みでした。そんなとき、あるレコード会社を立ち上げるにあたり、アイドルを出したいという話があり。その歌手第1弾としてデビューをすることになったんです。1億円くらいかけた大きなプロジェクトでした。「歌がうまい人を探している」と人づてに連絡が来て、抜擢してもらい。「井上杏美」という名前でデビューすることになりました。
念願の歌手デビューで華やかな生活が待っているかと思いきや…最初の2年間こそ契約でお給料は出ていましたが、その後は鳴かず飛ばずでバイト生活。喫茶店でランチのアルバイトに励む日々でしたね。
■ジブリ映画の曲『君をのせて』との運命的な出合い ── ご苦労された時代を経て、そこからどう『天空の城ラピュタ』の主題歌『君をのせて』と出合ったのか。そのプロセスが気になります。どのような経緯でお話が来たのですか? 井上さん:業界関係のお食事会に行ったとき、プロデューサーの方がいらしていて「今アニメのサントラに入る曲で歌う子を探していて、オーディションしてるんだよ」とおっしゃったんです。「私、歌手なので参加していいですか?」と後日、自分の声を入れたカセットテープを持参して聴いてもらいました。
先方は曲にマッチした声質を選ぶ審査をしていたところでした。そこにいた久石譲さんが「あなたが本当に歌えるか、試しにデモテープのレコーディングをしましょう」と言ってくださったんです。そこからトントン拍子に話が進んで「(私の)この声がいい」と、選んでいただき、話が決まりました。映画は8月公開なのに、レコーディングは7月の頭と、かなりタイトなスケジュールでした。作品はまだ観ていない状態でしたけど、曲だけ聴いて「いい曲だなぁ、これは絶対歌いたいなぁ」と思いましたね。やっと自分が歌いたい曲に巡り合えたなという思いでした。