和と中華のだしが生み出す、新たなそばの可能性 中華料理の巨匠・脇屋シェフがそば割烹をオープン
ここでは、その多彩な経験を生かし、そばを基軸に今の季節なら、八寸(前菜盛り合わせ)をはじめ、ふぐや牡蠣といった旬の食材を取り入れた一品料理の数々が、そば料理の合間合間に登場。コースに緩急をつけている。加えて見逃せないのは、さりげなく加味された中華テイストだろう。
例えばそば屋のつまみの定番アイテム“だし巻き卵”も、ここでは、脇屋シェフ渾身のスープ“毛湯(マオタン)”で煮こんだフカヒレを巻き込んでいるといった塩梅だ。脇屋シェフによれば、その毛湯も「鶏ガラ、豚ガラ各30kgに老鶏2羽や葱、生姜を約5~6時間煮込んでとっている」そうで、その毛湯の旨みがじんわりと染み込んだフカヒレが秀逸。(そばの)かけだしを含んだ卵との優しく滋味深いハーモニーが舌にじんわりと広がっていく。
もちろん、そばは言わずもがなの出来ばえ。何度も試作を繰り返し、脇屋シェフと試食を重ねて決めた麺の細さも絶妙なら、喉越しの良さも上々。多加水で打てばこそのしなやかなコシは、まさに「翁達磨」譲りだろう。
出色はコースの中盤に供せられる“カラスミそば”。そばにカラスミを合わせた佳品で、カラスミの熟れた塩味でいただくそばの洒落た味わいは、酒を呼ぶこと請け合いだ。
また、スタンダードな〆のせいろのおいしさもさることながら、思わず「おぉっ」と唸るのが汁そばだ。先の毛湯とそばのかえしを合わせたかけ汁は、再仕込み醤油でコクをつけ甘さを控えたそばのかえしと毛湯のコクとのバランスが素晴らしい。馥郁として余韻豊か。味に奥行きがあるのだ。
旬の具を使うそれは、季節で内容が変わるものの、撮影当日は広島宮島の牡蠣。大きすぎず、味も濃すぎず、そばに合わせるにはちょうど良いサイズ感。食べた時のシルキーな口当たりとプリッとした食感が特徴だ。その牡蠣から滲み出る海のエキスが、そばだしの旨みに更なる厚みを与え、至福の味を創りあげている。
ちなみにお任せのコースは、先附から〆のそば、そしてデザートまで全10品前後で15,000円。内容がグレードアップし、品数が少し増える25,000円のコースもある。