【相撲編集部が選ぶ九州場所11日目の一番】負け越し決まっても大奮闘! 宇良と平戸海が2度取り直しの大熱戦
ファンのために、目の前の一番に懸けて、これだけ精いっぱいの土俵を見せてくれる
宇良(押し倒し)平戸海 これでは、「きょうの一番」ではなく、「きょうの三番」である。 幕内後半戦の、宇良-平戸海戦で、土俵際でもつれる相撲が続き、2番続けて物言いがついての同体取り直しとなって、両力士は一日で三番も相撲を取るという珍事があった。 調べてもらったところによると、幕内での2番続けての同体取り直しは、平成24(2012)年9月場所9日目の東前頭8枚目大道(現阿武松親方)-東前頭13枚目朝赤龍(元関脇。現高砂親方)以来のことだという(最後は3度目の軍配を受けた大道が上手投げで勝利)。 ただ、昭和63(1988)年5月場所初日には、東前頭8枚目の水戸泉(元関脇。現錦戸親方)と東前頭7枚目の霧島(元大関。現陸奥親方)が、3回物言い取り直しとなり、四番取ったということがあったので、上には上がいるものだが……。 ちなみにこの時は、一番目は水戸泉が寄って出て霧島が土俵際で右掬い投げ、軍配水戸泉も取り直し、二番目は霧島の吊り寄りを水戸泉が打っ棄り、軍配霧島も取り直し、三番目は水戸泉が寄って出て霧島が土俵際で右上手投げ、軍配水戸泉も取り直し、四番目も水戸泉が寄って出て霧島が打っ棄り、きわどい相撲にはなったが、寄り倒して水戸泉の勝ちとなった。 この日の宇良-平戸海戦は、一番目は押し合いから最後は平戸海が青房下に押して出たところ、宇良が土俵際で相手の腕を手繰りながら左に回って粘り、最後は体が割れて両者が同時に前につんのめる形に。軍配は攻めた平戸海に挙がったが同体と見て取り直しに。 同体取り直しとなった最初の一番 二番目は、今度は立ち合いから猛然と宇良が押して出て、再び青房下の土俵際。平戸海は最後に右手で背中のほうから相手の左脇を引っ張るように引き落とし、その後、空中に大きく飛び退った。宇良は半回転しながら背中から倒れ、タイミングとしては宇良のほうが少し早く落ちた感じもあって、軍配はまた平戸海に挙がったが、平戸海も体が飛んでいると見られたのか、また同体で取り直し。 そして三番目。また押し合いとなったが、相手の左手をうまく手繰って平戸海を崩した宇良が、そのまま一気に押して出て、西土俵に押し倒し。この日初めて軍配を受け、文句なしの勝利を挙げた。 「やりがいがありました。なかなか、初めての経験だったので、面白かった。1回目はお互い様のまま、助けられた感じ。2回目はいったかな(勝ったかな)と。3回目で決着できて、よかったです。相手が平戸海関だから熱い気持ちで戦えたかなと思います」と宇良。動きの激しい小兵同士。一日に三番も取った両力士には、本当にお疲れ様、と言ってあげたい。 何といっても素晴らしいのは、2人が今場所苦しい星勘定になっているにもかかわらず、これだけの相撲を見せてくれたことだ。今場所はともに連日上位との対戦ということもあり、平戸海は長崎出身のご当所力士として連日大声援を受けながら前日まで1勝9敗、宇良も土俵に上がれば館内のボルテージが一気に上がる人気力士でファンの期待が高いが、前日まで2勝8敗と、どちらもすでに負け越しが決まっていた。ともすれば終盤戦は投げたような相撲になってしまってもおかしくない星勘定の2人が、そんなことには関係なく、ファンのために、目の前の一番に懸けて、これだけ精いっぱいの土俵を見せてくれる。そんな力士たちの気持ちがファンに伝わり、今年の90日間チケット完売という、協会にとっての快挙につながっているのであれば、素晴らしいことだ。 この日、優勝争いのほうは、琴櫻、豊昇龍の両大関は相変わらずの大関相撲を見せ、隆の勝は立ち合いに左にずれる奇襲から大の里を破って、3人が1敗を守った。一方、2敗勢は阿炎が阿武剋に、尊富士は豪ノ山に敗れて3敗に後退。どうやら優勝争いは1敗の3人に絞られてきたといえる。隆の勝はあすは大関ではなく霧島が相手となったが、もし勝ち続ければ、13日目、14日目は割を崩して琴櫻、豊昇龍との対戦ということになるだろう。そして千秋楽には琴櫻と豊昇龍が激突。1敗3人の直接対決がすべて残っているだけに、これは楽しみだ。さらに琴櫻、豊昇龍戦を残す大の里は、主役でこそなくなったが、今度はキャスティングボートを握る立場で、優勝争いのキーマンに。こちらも、存在感をどのように見せてくれるかに期待したい。 文=藤本泰祐
相撲編集部