パリオリンピックを「競技以外でも国威発揚の場」にしている中国
中国の場合、いわゆる「中華民族ブランド」を着用するのは当然、ということだろう。プライドの問題だ。オリンピックを舞台にした、世界的なブランド同士、企業同士の売り込み合戦とは、少し色合いが違う。中国のここ数回のオリンピック代表のウエアはみなLi-Ning。このウエアを着た選手たちが活躍すれば、中国の国内外で、ブランド価値がぐっと上がる。 つまり、Li-Ningというブランドそのものが、国家を代表しているのだ。「全部、自分たちで仕上げる」「中国の力だけで完結させる」――。古い言葉で例えると、「自力更生」だ。冒頭、ドーピング検査をめぐる中国競泳選手たちの反応を紹介してきたが、皮肉なことに、記者会見で中国選手がドーピング検査について、不満・不信を語る際にも、胸にはLi-Ningのロゴがメディアを通じて、映し出されていた。 ■自国以外の選手・審判にもブランド浸透を図る 先ほど、Li-Ningブランドの浸透には、「国家の後押しがある」と言ったが、やはり、国家が中国の国民に対して、欧米のブランドではなく、自国のブランドを定着させたい、自尊心を植え付けたいとの思いは強い。李寧というスーパースターが立ち上げたブランドは、うってつけだ。 ただし、戦略は次のステップに移っている。Li-Ning中国のスポーツ用品ブランド、Li-Ningのウエアを、中国選手に着せるだけではなく、他の国の選手にも普及させる。また、競技によっては審判員のウエアにも広げることを狙っている。 パリオリンピックでも、バドミントンなど一部の競技においては、審判団にこのLi-Ningのウエアを提供している。テレビを観ている中国の視聴者にとって、自分たちの国の選手だけではなく、審判員がLi-Ningのロゴ入りのウエアを着ているのを確認できれば、Li-Ningというブランドの評価だけではなく、中国という国家の評価にもなる。 ただ、ほかの国の選手団に、Li-Ningのブランドを付けてもらう戦略は道半ば。アメリカのナイキ、ドイツのアディダスの存在は大きい。欧米の大手ブランドが先行している。選手のウエアに付いているブランドのロゴ、競技に関連する品々はいったい、どこの製品が採用されているのか? 競技以外にもパリオリンピックの見どころを見出したい。
■◎飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
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