「私の史実はこれでいいです…」枕草子、誕生の経緯 大河ドラマ「光る君へ」 声に出して読むべき理由
大河ドラマ「光る君へ」。ファーストサマーウイカさんが演じる清少納言が「枕草子」を書き始めた経緯が描かれ、多くの平安文学ファンが涙し、SNSでも話題になりました。清少納言を推す編集者・たらればさんは「枕草子は声に出すことをイメージして書かれた文章で、改めて心に響くと再認識させてもらった」と語ります。(withnews編集部・水野梓) 【画像】「光る君へ」たらればさんの長文ポスト 放送の1年間「情緒がもつのか…」
心の宝箱にしまったシーン
水野梓・withnews編集長:大河ドラマ「光る君へ」第21回では、ついに清少納言が枕草子を書き始めました。 たらればさん:感無量でした。テレビの前で号泣していました。 水野:父が亡くなり、兄が流罪になって、自ら髪をおろして「生きていてもむなしいだけ」と語る定子さまのために、「春はあけぼの」「夏は夜」「秋は夕暮れ」「冬はつとめて」とつづって定子さまの枕元に差し入れる清少納言の描かれ方、すばらしかったですね…! たらればさん:ファーストサマーウイカさん、高畑充希さんの演技も、セットもセリフもすばらしく、もう万感の思いです。これ以上ない表現でした。生きててよかった…。 水野:(笑)。「枕草子」の執筆動機や経緯はどこまで明らかになっているんでしょうか? たらればさん:一般的には、枕草子の跋文(ばつぶん)、いわゆる「後書き」に書かれているものが執筆の経緯だと言われています。 ある日、定子さまの兄の藤原伊周(内大臣)が、一条天皇と定子さまに紙を献上したとあります。 定子さまから「帝は中国の歴史書『史記』を書かせているそうだが、こちらは何を書いたらいいか」と聞かれた清少納言は、「枕にこそは侍らめ(枕にございましょう)」と答えたところ、それを気に入った定子さまから「あなたにあげるわ」と紙を賜ったと。 この「枕」というのは、「史記」に「敷布団」「しきたへ(枕の枕詞)」という説があります。 水野:ドラマではまひろ(吉高由里子さん)が「史記」とかけて、「中宮さまを励ますために、四季を書いたらどうか」と勧めていましたね。 たらればさん:まさかの紫式部による枕草子執筆推奨説ですよね。驚きました。 この時期は、定子さまは弱り目に祟り目で大変だった頃です。 初産の妊娠中に実家が火事になって、定子さまは家の者に背負って焼け出された…という記録があります。おそらく清少納言も近くにいたでしょう。 ドラマのように、炎に包まれる二条邸で清少納言が定子へ涙ながらに「お生きにならねばなりませぬ」と訴える場面があったかどうかは分かりませんが、私の中の史実はもうこれでいいです。 あのシーンは一生心の宝箱にしまっておいて、時々思い出して反芻します。 水野:ドラマでは寝所で横たわる定子へ、清少納言が御簾越しに1枚ずつ枕草子を差し入れている演出でしたが、「実際は、巻物(巻子本)に書いていたのではないですか」という質問が来ています。 たらればさん:ドラマでは、1枚1枚にちらし書き、でしたね。 清少納言が書いた元原稿は残っていないので、彼女がどういう体裁、レイアウトで枕草子を書いたかは分かっていませんが、和歌はあんなふうに1枚1枚に書いていたので、ちらし書きだった可能性もあります。 ただ個人的には、当時、紙は今よりも大変貴重なので、もっと1枚に詰め込んで、みちみちに書いていたんじゃないかなと思います。まあでもビジュアル要素としてはドラマのあの描写は100点満点です。襖に貼りたい。