かつての新車セールスマンはグルメ多し! 働き方改革と共に消えた「営業の醍醐味」とは
昼飯を食べる店もある意味お客さん同士だった
一方で、昭和や平成初期の新車販売現場といえば、得意客の少ない新人や、いまでは問題にになりかねないが、女性セールスマンを「留守番」として配置し、一定のキャリア以上のセールスマンは朝出勤してミーティングを終えるとすぐに外まわりに出かけ、夜まで帰ってこないことが当たり前であった(昼どきに一度戻るセールスマンもいたが)。得意先をまわり新車を欲しがっている人を紹介してもらうなど、「外売り」がメインだった時代の話である。 そうはいっても、土曜や日曜に店頭販売促進イベントが開催されるようになると、そのときだけは外出を手控え、お昼は出前を取ってみんなで食べるということもあったと聞いている。 しかし、新車販売セールスマンの昼食は外で食べるのが大前提であった。「先輩や上司が新人セールスマンに点検のための車両引き上げや点検後の納車などでお客のクルマの回送への同行を頼むことがよくあり、その帰りにお礼として先輩や上司が食事をご馳走してくれることもあったそうです。そのときはファミリーレストランとかではなく、地元でも穴場といえる個人経営の店が多かったですね。先輩や上司の行きつけであり、店主と顔なじみなのは当然で、『ここには半年前に新車を納めたんだよ』と聞くことも多かったです」(事情通) つまり、単に外でご飯を食べるだけではなく、常連となり顔なじみとなってそこの店主に新車を売ってしまうというのも、ある意味セールスマンの「たしなみ」であったのである。店をやっているので、その後も顔を繋げておけば、店主から新車を欲しがっている人を紹介してもらっていたこともしばしば。事情通によると、当時のセールスマンの多くがグルメなのも間違いないのだが、必ずといっていいほど商売に結び付けていたのである。 たまに昼どきに店舗で顔を合わせると、みんなで食べに行くこともあったようだ。毎回ではないものの、個室のある店を選び、食後はその店の主人などと顔なじみということもあり、そこでみんなで昼寝をして帰ってくることもあったようだ。そのため昼食に出かけると2時間ぐらいは帰ってこないこともあったと聞いている。 夜遅くまで購入見込み客や得意先をまわるのが当たり前だということもあり、昼食後の昼寝はかなりマスト(新車販売以外の営業職でも昼寝は定番)だったと聞いている。 ちなみに、いまどきは保有する営業車に事務所で位置情報を確認できたり、走行軌跡を記録したりできるデジタルツールを搭載している企業(新車販売の世界は個人のクルマを使っているのでそこまではしていない)も多いので、うかうか昼寝などもしていられなくなっているようだ。 「売れればそれでいい」、新車販売の世界もまだまだおおらかさの残っていた時代の話。いまでは、午後6時あたりには店を閉め、それ以降の残業は基本的に認められない。つまり、ダラダラと長時間働くことはなくなったのだが、昼寝をするような余裕もなくなったし、おいしいランチの店を探す時間もなくなっているようである。 昔は店舗のセールスマンも必要人数が十分で、阿吽の呼吸で誰かが店舗にいるだろうというなかで外まわり営業をしていた。いまでは、セールスマンがひとりという営業日も珍しくないなか、店を開けるディーラーもある。「とにかく出かけても用事を済ますとすぐ戻ってくるセールスマンが多いようです」とは、またしても事情通。 社会全体が緩く働くことを許容できなくなったのか、それとも現代人が効率最優先で働くようになった結果なのかはわからないが、それをどうこういうのは昭和を知る筆者のようなオジサン世代のセールスマンに限られたボヤきのようでもあり、そんな時代を知らない多くの世代のセールスマンは違和感なく働いているので、これ以上大騒ぎするつもりは毛頭ないが、新車販売セールスマンという仕事の面白味というか醍醐味はかなり減ってしまっているのではないかと感じている。
小林敦志
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